表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

桜の季節

作者: たくまさん

 18歳の春の、ひどく些細で平凡な、けれど僕にとっては少し特別な話。



 * * *



 今日も綺麗な青空の下、僕は屋上にいる。桜が淡い色の花を咲かし始める頃、僕らの日常は終わりを告げようとしていた。

 そんな実感の無い、けれど確実に訪れる最後の日に、僕は何を思うだろう。


 ふと、扉が開く音がした。


 振り返るとそこにいたのは、クラスメイトの相川だった。

「まーた和馬君、そんなところで寝てるんだね。授業遅れちゃうよ」

 そう言って僕の隣に腰を下ろした相川は小さくため息をついた。

「もうすぐ卒業だね」

「……僕たちもバラバラの道に進むね」

「うん。……やだなー。和馬君と一緒のところがいいなー」

 ちらりとこちらを見る相川に一瞬目を奪われ、心臓が大きく跳ねるのを抑えながら顔を背ける。相川がねえ、と僕の名前を呼んだ。

「和馬君はさ、好きな人とかいないの」

 その言葉に再度僕の心臓が波打つ。

「……急になに」

「えー、もうすぐ離れ離れになっちゃうんだし、たまにはこういう話もいいじゃない? 和馬君、こういう話すぐ逸らしちゃうんだもん」

「……いるよ」

 吐息のような、声にならない声をぶっきらぼうに放った。

「……私も、いる」

 かろうじて聞き取れた相川の声も吐息のようで、僕の顔がひきつるような、何かを期待するような表情になるのが自分でわかった。

「誰」

 あえて雑に、相川のいない方向へ投げかけた僕の声だったけれど、相川はしっかりと返事をしてくれて。

「誰だと思う?」

「……僕が知るか」

「――気づいてる癖に」

 拗ねたような声音にまた頬を赤くしながら、僕は自分の不器用さとか、素直じゃないところとか、うんざりしながら空を仰いだ。


「あとね、君の好きな人も、気付いてる」


 だろうなあ。心の中でだけ返事をして、言葉は発しなかった。

 空はどこまでも青く透き通っていて、僕の心も何故かそんな穏やかな空に似ている。桜の花が満開に咲く頃、僕は僕の気持ちに素直に向き合えるだろうか。




 卒業式は、もうすぐだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ