7 【メイドのサリーの話】
私、ディラン伯爵家のメイドをしております、サリーです。
齢18歳でメイド歴4年と言えば、それなりの経験者と言われるレベル。なのに・・・
お世話を任されている伯爵家のお嬢様、ユキさまに置いてかれてしまいました!!
いつも通り朝日と共に目を覚まし、食堂脇の小部屋で行われる使用人の朝礼(執事やメイド頭からの申し送り事項を聞くための会ですの)に参加したときのことです。
「あら?まぁ・・・サリーあなた、ユキ様のお出かけに付き添わなかったの?!」
私が部屋に入った途端、マリーナさんが声を上げられました。
執事のマヌエルさんやメイド頭のサルマさんも驚いていらっしゃいます。でも、お二人が見ているのはマリーナさんで、私同様にお二人も状況が分からない様子。
マリーナさんの話では、朝食の下拵えに台所にいたところ、ユキさまが出かける旨を伝えに来たと。マリーナさんはユキさま付きのメイドである私も、当然同行しているものだと思っていたみたい。
もちろん私には寝耳に水。
思わず顔色が悪くなったわよ。だって、おひとりで外出させてしまうなんて!旦那様のご親戚にあたるレビラ男爵家のエロ息子・・・もとい、カリームさまみたいなロリコン趣味の変態に狙われやすいご容姿をしている上に、外国生まれのせいかユキさまは他人に対する警戒心が薄くていらっしゃる。
大好きなお菓子でも見せられたら、絶対にホイホイと着いて行ってしまうにきまってますもの!
すぐに旦那様もお目覚めになるだろうから、旦那様にご報告の上、ご指示をあおぎましょう。そうマヌエルさんが決定したので、私も内心はオロオロしながらも、とりあえずはユキさまのお部屋の片づけなどで気を紛らわせることにしました。
そう待つこともなく旦那様がご起床になり、廊下を歩きながらマヌエルさんと何がしかお話をされています。立ち聞きは良くないのですが・・・。
あ、旦那様が私に気付き、手招きをしてくださいました。
「サリー、心配をかけたね」
「い、いえ!私こそお嬢様がいらっしゃらないことに気が付かず、大変申し訳ございません!!!」
「サリーのせいではないよ。あの子は侍女を連れることに中々慣れないようだね」
「サリー、旦那様の仰る通り、心配は無用ですよ。どうやらヨシュアさまがご同行してくださっているようだ。サルーが見ていたらしい」
旦那様とマヌエルさんに言われました。
まぁ!庭番のサルーさんが!彼が見かけたなら間違いないわ!
あぁ良かった。ヨシュアさまは見かけこそ貧弱・・・もとい、華奢でいらっしゃるけど、剣術は素晴らしいとアルフレドさまも仰っていたし。
きっと無事にお戻り頂けるはず。
しかし、ヨシュアさま。ユキさまに懐いているのには気付いていたけど、こんな早朝からユキさまに付き添うなんて・・・。
まさか、お隣のユキさまの部屋の物音に聞き耳を立てていらっしゃる・・・?
そう言えば、ユキさまにだけは良く話しかけていらっしゃるようですし、ユキさまがお出掛けの時はいつも、付かず離れずで着いて行かれていますよね。
ユキさま宛てのお茶会の招待状にお茶をこぼして行かれなくしたこともありましたが、メイド仲間のルイスが「あれは絶対に確信犯だ!うっかり零したにしては、ありえない角度で手首がまがってた!」と厨房で騒いていたこともありました。
まさかとは思いますが・・・本当に危ないのはカリーム・エロ卿ではなく・・・
ちょっとヨシュアさまの部屋付きメイドに話を聞いてみなければ。