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「・・・それ、生卵入れたよね?」
ユキの差し出す特性筋肉養成ジュースを指さし、ヨシュアが言った。
「生じゃない、半熟だもん。ジョゼフィーヌの卵だから、衛生面にも気を使った安全卵だよ!」
「ジョゼフィーヌって誰?」
「ナポレオンの寵姫だよ!ジョゼフィーヌは生でも食べられる卵を作る為に、小部屋で厳重なる衛生管理の元で育てられてるんだよ!」
思い切り胸を張る。そう、ヨシュア肉体改造計画の第一歩として、良質な卵の摂取が可能となるように、先週から鶏王の愛妻の侍女よろしく、とある雌鶏に様々な心配りをしているのだ。まぁ、実際に体を動かしているのは飼育係りの方々だけど。
「ヨシュアは痩せすぎでしょ?良い年頃なのに、そんなんじゃモテないし、騎士になるなら尚更筋肉つけないと!」
これはヨシュアの親切に報いようとする真心からの愛の鞭だ。卵の他にも様々な野菜を入れた黄土色の半熟卵ジュースに怯んだヨシュアだったが、喉を鳴らすと意を決してゴブレットを受け取った。
「・・・っ!」
「よし!よくやった!これは三日置きに作るから、しっかり飲むこと!次は筋トレ!」
「!!」
特性筋肉養成ジュース、略して特筋汁を飲み乾したヨシュアの背を叩き、外を指さした。
「落ち込んでた時の方が大人しくて良かった・・・」
腹筋背筋、スクワット、カーヴィと、インとアウトのマッスルトレーニングで息を弾ませていたヨシュアが、声を出したかと思ったら嫌味を言い始めた。
うむ。確かに昨日はどっぷり落ち込んだ。アンナさまやマリーナ達が心配してお菓子やらリボンやらを貢いでくれる程に。
原因は二日前に届いた学園からの試験結果にある。伯爵の元に届いた手紙には、休み明けから”一般教養クラス”に登校して良いと書かれていた。
つまり試験結果から”普通の子”と判断された。前世の記憶があるにも関わらず!
「なんで一般教養クラスじゃだめなの?一応、魔術や医術の単位も選んで受けて良いと言われたよね」
ヨシュアは不思議そうだ。書面には試験結果、今一つ判断が難しいところがあったため、念のため暫くの期間は他のクラスの単位も取って良いと書かれていた。つまり前世風に言うなら普通科の生徒が芸術や音楽の学科に特別参加出来るようなものだ。
学園の方針では、能力のより高いものを伸ばすという。そのため剣術クラスでも初期教育では長剣、短剣、槍、弓、体術といったコースを一通り教わるが、得意分野が分かった時点で、そのコースの教師に付き、それを専門に教わることになる。
ユキの入る一般教養は王族が初期教育を受けるクラスで幅広い知識をえられるという触れ込みだが、要は貴族の中でも特別秀でた能力の無い者が入るクラスっぽい。
期間限定の単位取得許可というのはつまり、特別役立ちそうな能力が無いけど、頑張るなら他もやってみなよ、という温情とも受け取れる。
「予定では、世界征服できるぐらいの魔導士とか、錬金術で金を生み出す賢者とかになって親孝行するはずだったの・・・」
「そんな予定を立てる程の自信がどこから来るのか教えてよ」
「ねぇ、お医者さんとか薬師とかは儲かる?」
「流したね。・・・そうだな、癒しの魔力をもつ医術師や薬草師は王族や貴族に重宝されるかな。単なる医師なんかは市井に下りれば需要があるけど、儲かるかと言えばそうでもないだろうね」
「・・・つまり、魔力の無い知識だけの専門家に出世の道はないってことか」
「出世って話なら、官僚には無能力者が多いよ。まぁ、爵位が必要な職がほとんどだし、そもそも女性の官僚なんていないけど」
だめだ。転生チートでウハウハは望めそうもない。伯爵にご恩返しは無理そうだ。あ、でも独り立ちしてご迷惑をおかけしないぐらいは出来るかも。
いや・・・もう一つ手があった!
「あれだ!!」
「・・・なに?」
「ザ・玉の輿!!」
「・・・」
「私が金持ちに嫁げば伯爵ご夫婦の老後は安泰だよね?地位は既にお持ちだしアルが爵位を継げば、あと必要なのはお金なんだからさ。よし!方向性は決まった!」
「・・・その方向性を試しに聞いてもいいかな?」
「いいよ?まず、一般教養クラスで上位の成績をとる。やっぱりおバカより賢い方が商人受けするでしょ?あと顔が残念なのは仕方ないから雰囲気美人になる!企業家とか大手商人とかをメロメロにして結婚して貢がせる!」
「雰囲気美人って・・・すでに結果が出てるよね?ほんとに、その自信がどこから・・・」
スルー・スキルは前世から鍛えまくっているので、ヨシュアの嫌味っぽい口調の励ましを聞き流す。
雰囲気美人・・・どんなルートで行こうか。
今の顔は前世に比べるとあまりにも平均的日本人顔だ。ついでに今の体格を考えると身長も平均的だろうし、胸にも期待できそうにない。こちらの世界の女性は背が高く胸もよく育った人が多いので、体格で張り合うのはやめよう。
しかし、前世ではお粗末だろうが、今の世界では唯一の日本人顔と黒髪・黒目は武器にもなりそうだ。もの珍しさから興味を持ってくれる人だっているだろう。前の世界でもイケメン外国人が連れた日本女性には、のっぺり顔が多かった。知り合いのアメリカ人に聞いてみたら、一重のっぺりがミステリアスで素敵だと言っていた。
・・・“ミステリアス”で行こう。“峰不二子”や“ロリータ”路線より、なんか簡単・安全そうだし!
「頑張る!ヨシュアも協力を惜しまないように!」
高らかに宣言するついでにヨシュアを巻き込んでおく。




