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「ヨシュアさまはこちらでお待ち下さい」


学園長の部屋の前まで案内してくれた学園事務官とやらが、ユキと手を繋いだままのヨシュアを引き止める。頼みの綱の手を離したくなくて、ぎゅっと手を握り締めヨシュアに寄り添う。

顔を触りまくっているところを見つかったことや、学園内を通る際に人に見られたことなど、色々と恥ずかしかったが、ヨシュアの大きな手に包れていると心細い気持ちが宥められた。手を離すのが怖い。

よくよく考えると、知らない場所に来るのは初めてだ。3年間、伯爵家を出た事が無く、この世界で知っている場所は森の村と伯爵家周辺のみ。家人のいないところで1人になることなど無かった。

昨夜までは楽しみにしていた学園が、急に全く未知の世界となって不安とともに重くのしかかってくる気持ちがする。


「大丈夫ですよ。危険なことなどは一切ありません。さぁ、こちらへ」


事務官は人好きのする笑顔でユキを促しているが、足がすくんで動けない。今のユキはただの13歳の子供だ。危険を感じているわけではない。ただ不安なのだ。今この場で、家と繋がりがあるのはヨシュアしかいない。

動かないユキを中心に3人が固まっていた中、最初に動いたのはヨシュアだった。ユキの手を離すと頭を撫で、そのまま背中に手を滑らせると、そっと背中を押した。

見捨てられたような気持になり、情けない顔で振り返るユキに、部屋の前のベンチを指差す。ここで待ってるってことらしい。

意を決して事務官に向き直る。

事務官が扉をノックし声をかけると、中から促しの言葉が返った。


部屋の中に足を踏み入れると、そこは図書館だった。いや、園長室なのだろうが、驚くほど本が多い。壁という壁を書物が埋め尽くしている。

室内は明るかった。入り口正面に天井まで届く大きな窓のお陰だろう。その窓を背に重厚な机が置かれ、そこに園長らしき人が座っている。逆光で顔も見えず、長い髪と体をすっぽりと覆うローブで体格も分かりづらい。

その人が立ち上がって机を周りユキの目の前まで歩いてきた。


うわぁ。サンタクロースだ!!いや、ダンブ○ドア先生!?


期待通りの園長の姿に一気にテンションが上がる。


「ようこそ。王都学園の長をしておりますサンダイル・クローズと申します。新しい学びの徒はこの国の宝。微力ながら我々もあなたの健やかな成長をお手伝いさせて頂きます」


サンタクロース園長はユキの手を取ると、ぽんぽんと叩き、白い髭の間でにっこりと笑う。やさしげな声と眦に緊張もほぐれる。ようやく声を出せるようになり、礼儀作法も思い出した。スカートを摘み、垂直に腰を落として正式な挨拶を行う。


「はじめまして。ユキ・ホアニータ・ディランと申します。どうぞ宜しくお願いします」

「こちらこそ。ユキ。いや、ホアニータとお呼びした方が宜しいか?」

「どうぞユキとお呼び下さい」

「ホアニータというお名前は伯爵が付けられたのかな?」

「はい。お引取り頂く際に、こちらの名前も必要だろうと贈って頂きました」

「よい名ですな」

「ありがとうございます」

「あちらでお茶でも飲みながら少しお話をししよう」


園長はユキの背に手を添えると、ソファーに促した。

テーブルの脇には先ほどの事務官が立っており、その横でメイドがお茶の準備をしている。

面接試験だ!思わず構えるが、伯爵家での日常生活についての質問から家族について、家庭教師から教わっていることについてなど、世間話風に話が進められる内に肩の力が抜けてきた。


「さて、伯爵家に入る前にいらっしゃったお国の事は思い出せますかな?」



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