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お尻痛し、吐きそう・・・
王都へ向かう馬車は伯爵家のものではあるが、質素な作りだ。つまり、窓も小さいし狭い。椅子は磨かれてはいるが木材むき出しで、クッションもない。
今は公道を走っているので、まだ振動が少ないが、伯爵家の私有地から公道に出るまでの道は酷かった。ペティコートが多少のクッション代わりになったが、絶対にお尻に青あざが出来ていると思う。
伯爵からは一番良い馬車を使うように言われたが、ユキより先に王都へ出勤する伯爵にこそ使って欲しくて辞退した。
やっぱり馬車借りればよかったかな・・・。いやいや良い馬車はご老体にこそ必要だよね!
具合が悪いのは馬車のせいばかりではない。学園への登校や試験に対する緊張が高まっているせいもある。
こんなに緊張したのは、第一志望の会社面談の時以来だ。あの会社みたいな圧迫面接だったらどうしよう・・・。
そんな不安がぐるぐると頭を回る。しかも、事前にヨシュアに学園の話を聞いていたせいか、頭の中にアノ魔法学校の音楽が流れ続けているのだ。映画化された某ファンタジー小説に出てきたアレ。
異世界版ポッターに会えるかもしれない。前向きに行こう。
無理やりポジティブ思考に切り替える。魔法学校の楽しいエピソードを思い出そうとするが、映画を断片的に見ただけなので思い出せない。
魔法学校の予備知識すら無いなんて、前世の記憶の役立たず!!
ぐっと両手を握り締めたら、張った肘が隣に座るヨシュアの腕をかすった。
登校を反対していたヨシュアだったが、ユキの始めての登校についてきてくれた。ヨシュア自身は、普段馬で通学している。この馬車での通学はさぞかし辛かろうと横をみると、腕を組み目をつぶって俯いている。
こんな馬車の中で居眠り・・・。羨ましい。
睫毛すごいなー。長くてふっさふさ。金髪さんは睫毛も金髪かー。
変なことに感心しながら、眺め放題の良い機会なので観察を続ける。
白い肌も滑らかで美しい。襟足は綺麗にカットされているが、前髪は少し長い。額に落ちた髪が体の揺れと一緒にゆらゆらと揺れるが、それさえなければよく出来た石膏像みたいだ。
綺麗だなー・・・さ、触りたい。寝てるし、ちょっと触るだけなら良いよね?
そっと手の甲を白い頬にあてる。予想と違い、少しひんやりとしている。ゆっくりと手を滑らせると、肌触りは予想通りすべすべだ。そのまま今度は指で睫毛に触れる。見た目どおり柔らかいと思っていたが、意外に固い。鼻は高く真っ直ぐだ。唇を曲げ人差し指の第二間接で少し押してみる。やっぱり柔らかい。
その時、唇に指を押し当てた手を掴まれた。
「・・・っ!」
ユキの手をとり、唇に押し当てたままのヨシュアと目が合う。少し上目遣いで見ているヨシュアに表情は無い。
「ご、ごめん」
なんとなく謝る。手を引き抜こうとするが離してもらえない。
「勝手に触ってごめんなさい」
もう一度、ちゃんと謝る。ようやく唇から手が離された。
ほっとしたのもつかの間、握られた手自体は開放されていないことに気付く。やんわり取り戻そうとすると、しっかりと握られた。
結局その手は、馬車を降り、学園長の部屋の前につくまでつながれたままだった。




