一話
タグにあるように、残酷な表現があったりします(一話目にはありませんが)お気を付けください。
それと、まだまだ未熟であるが故、駄文であるかもしれませんが見てくださると幸いです。
その日、とある少女の雷が落ちた。
「もう! お父さん? お父さんは騎士なんだから、早起きぐらい自分でしてよね!」
その少女は、せっかくの美しい顔の眉間にシワを寄せ、プンプンという擬音が聞こえてくるくらいしかめっ面をしていた。
少女に父と呼ばれた男はハハハと笑い、ベットから出る。すると直ぐに服に着替え、部屋から出てすぐにある階段をおりた。そこはリビングルームで、机には既に朝食の準備ができている。
「おはよう、ライラ。」
「朝食はもう出来ているから、早く食べよう?」
「そうだな。う~ん、いい朝だ。」
そう言いながら父はのびをして椅子に座り、パンとソーセージを頬張った。肉汁が口に広がり、味がますます旨くなる。旨いとニッコリ微笑み、更にもう一つ口に入れるとまた味わって食べた。そんな父の様子を見ながら少女、ライラは微笑み、同じように頂く。
「これを食べ終えたら、いつも通り稽古をしようか。」
父はそう言ってパンを囓る。ライラははいはいと、面倒臭そうに二度返事しつつ、サラダを皿に移した。今日、1回目のサラダのおかわりである。
ライラはいつも、父から剣術の稽古を受けていた。実力の方はとてもではないがある方で、並の騎士といい勝負が出来そうである。ライラの物覚えはとても早く、剣術も短期間で殆ど習得していた。
そのため、父はよく「ライラの剣術の腕は僕から、物覚えの良さと知恵はお母さんからだね。」と言っていた。
少しすると食事が終え、剣を持って庭で稽古を始める。勿論、使う剣は刃が潰してあるものだ。
「う~ん、今日の朝食はとっても美味しかったよ。」
「ありがとう、お父さん。あ、今日は何をするの?」
「そうだね…今日も手合わせしようかな。」
「今度は負けないんだからね?」
ライラがそう言うと、父はいつも笑いながら、決まってこう言う。
「騎士である僕に勝つなんて、まだまだ無理だよ。」
と。父が言うには、どれほど訓練しようが騎士には勝てないらしい。なぜなら、騎士は騎士としての誇りを持って戦いに挑むからだと。
それを聞いてライラは最初、呆れた。誇りがあるから誰も勝てないと言うからだ。でも、最近はそうも思えてきた。父は、騎士という職に誇りを持って私と戦うため、いつも勝つ。単に実力がとてもあるからというのもある。でも、それでも、そう思えるような綺麗な動きで私を倒すのだ。
「それじゃあ、始めるとするか。」
「私から行くね?」
「どうぞ?」
合図が出た。すると、ライラは剣を正眼に構え、一気に距離を詰めて斬りかかる。
「はぁぁあああああああっ!」
「おおっとと」
しかし、父はライラの袈裟斬りをするりと躱し、剣を滑らせてカウンターをする。が、ライラはそれを一瞬で察知し、バックステップで後退した。父の一閃は綺麗に宙を斬る。しかし、父はその勢いでライラの方へと一気に迫ってくる。
「くぅっ!」
「よっ」
すると、ライラはすぐに剣を盾にするような構えをとった。瞬間、父は勢いに身を乗せ、回転切りをしたのであった。金属と金属の激しくぶつかる音が、この田舎町に響いた。
ライラはその重い一撃を踏ん張ることでなんとか耐え、突き放す。だが、この一瞬で息が切れてきたのか、荒くなっていた。しかし、もう一度正眼に構えをとる。まだ始まったばかりなのだ。今日こそは倒すと考えていたライラは、その恐ろしい程ある精神力で立っていた。
「……はっ!」
先程と同じように、ライラは真正面から一気に距離を詰める。が、今度は低い姿勢での前進で、そこから左逆袈裟斬りを繰り出した。
「おお?っく!」
これには父も意表を突かれたのか、剣での防御にまわった。剣はライラにとって、重過ぎるため、このような『斬る』目的では到底使えないと考えていたからだ。しかし、剣はもともと叩くように切る為にあるので、父の防御に敵うわけがなかった。そう、ライラは弾かれてしまったのだ。
が、これも計算の内であったのか、父の横を前転回避をして通り過ぎると、そこからすぐに父の方を向き、横斬りをした。しかし、父はそれを察知していたのか、その場で前転回避をとった。ライラの剣は宙を斬る。そして、そこで二人とも立ち上がり、向き合った。
「強くなったね。」
「手加減してるくせにっ」
そう、互いに一言呟くと、一閃がはしる。それはまるで光であった。どちらも全力で攻撃しているため、勝負がここで着く。負けたのは―――
「ぐっ……やっぱりお父さんは強いね……」
ライラであった。少しして、ライラはがくっと膝をついた。父はそのまま剣を鞘にしまい、ライラの方へと向かう。
「まぁ、負けるのは当たり前さ。しかし、強くなったねぇ……」
「でも、負けちゃう……」
しょんぼりという擬音がするような雰囲気を醸し出すライラ。しかし父は、そんなライラに向かって、笑ってこう言う。
「仕方ないさ。なんせ、僕は騎士だからね。」
そして、更にこう続ける。
「騎士っていう仕事はね、自分の中の騎士道に、誇りを持って誰かを守ったり、救ったり、誰かと戦ったりするものなんだ。」
「だから、何で?」
「だから、その自分の中の誇りにかけて、正々堂々、礼儀正しく、そして勝つという事が必要なんだ。」
ライラはへぇ〜と納得する。なるほど。確かに騎士は勝つことが必要だ。そして、正々堂々、礼儀正しくあることも必要だろう。父はその誇りをかけて戦っていたのだから、負けるはずがない。……手加減はしていたけど……。
しかし、それでも何とかして勝ちたい。そう思いつつ、ライラは立ち上がると日課の素振りと型をやり始めた。父はそれを見届けると、一つ欠伸をし、腹をポリポリと掻いて、家の中に戻っていった。……本当に誇りはあるのだろうか……?
それから少し経つと、ライラは家の中に戻っていった。そして、鼻歌を歌いながら出掛ける準備をしていた。今は、クローゼットを開いて、今日着る、お気に入りの服を選んでいる最中である。
何故、こんなにも機嫌良く出掛ける準備をしているのかというと、王都に行くことを父が許したからである。父の許可無しでは王都には行ってはいけないのだ。そのため、ライラは自分のお小遣いを使って買い物をしようと考えていたのだ。主に自分の欲しかった服を、だ。
そして、着る服が決まったのか、「……うん、これでよしっ!」と言うと、せっせと着替え、鞄を拾い上げて肩から斜めにかける。これで準備は完了したのか、ライラは自室を出て階段を降りる。すると、何やら話し声がライラの耳に入ってきた。
「…………そろそろ危ねぇぞ。もう動きが確認できている。」
「……そうか。でも、僕の考えでは、ここで動くのは勘付かれている、と思われるかもしれない。」
聞こえてきた声は父の声と誰か知らない男の声であった。二人はヒソヒソと小声で何か話し合っている。その声色は、普段の父のそれとは違い、真面目で厳しい声色であった。何を話しているのだろうか? とライラは耳を澄ましてみた。
「だが、このままだとお前がーー」
「まだ、この体はくたばらないさ。しかし、動きが確認されたのは何処だ?」
「……王都周辺の村だそうだ。騎士たちがそこまで動いて待機している。……それと、いくらお前が幾つもの死線を越えて数多の屍を山積みにしてきた奴だったとしても、死ぬ時は簡単に死ぬ。無敵じゃねぇんだ。だから」
「ライラ、もう行くのかい?」
ライラはビクッと体が跳ねた。気付かれていたのだ。渋々階段を降りると、ライラは「うん……。」と返事をした。
「いいかい? くれぐれも気を付けていくんだよ? いいね? 絶対だよ?」
「……もう、心配し過ぎ。私もそんなに子供じゃないよ。」
良かった。とライラは心の中で溜息をつく。元の父の声色だ。
「もう、お父さんは心配で心配で……お父さんもこっそりついて行こうかな?」
「もう! そんな事しなくていいの!」
そう言ってプイッとライラはそっぽを向いた。すると、父ともう一人の男が笑う。そういえば、誰なのだろうか。
「ははは、失礼。俺はアレンっていうんだ。君のお父さんの友人さ。よろしく。」
「よ、よろしく……です。」
いきなり自己紹介をされた為、ライラは上手く返事ができなかった。にしても、綺麗な人だ、とライラは思う。髪の色は黒色で、目の色が碧い。そして服装は高価な物は使っていないが、少し派手である。まるで、田舎に住むチンピラの様であった。
しかしライラは、紳士さを忘れないその態度からして、これは変装なのかな?と考える。だが、すぐに思考は買い物へと戻され、玄関へと向かった。
「あ、それじゃあ行くね?」
「うん、本当に気を付けていくんだよ?」
「……」
「行ってきまーす!」
元気の良い挨拶とともに、ドアの開閉音がした。すると、アレンはライラの父を睨んで言う。
「……何故行かせた。俺が今忠告したばかりだ。」
「娘には自由に生きてて欲しいからね。無理には縛ろうとは思わないのさ。それに」
ドンッと机を叩き、その言葉を遮って怒鳴るようにアレンは言った。
「危険なんだぞ? 奴らがあの娘を、お前の娘だと知ったらどうなるか!それぐらい」
「まだバレていないし、バラさない限りバレやしない。内緒にしてたからね。俺は独り身だと。」
しかし、ライラの父は言葉を遮り、そう言って涼しい顔をして冷静で居てみせる。何を考えているのだ? と、アレンは理解できなくなり、ライラの父の目を見る。その目には、騎士としての覚悟を決めたものと、親父としての申し訳なさがあった。
★
家から出たライラは、石で作られた町の小道を走ると、朝の市場に着いた。この町から王都へ行くには、この市から荷馬車に乗らなければならない。歩くと疲れるだけでなく、時間もかかるのだ。
ライラは、ついでにこの市で野菜を買っておこう、と考えていた。歩き慣れているのか、迷いなく、いつも利用している八百屋へと向かう。相変わらず、この市場は騒がしい。
「あらぁ、ライラちゃんじゃないの~!」
そんな騒がしい市場の中でも、一際元気の良い女性の声がライラの耳に入る。
「フェルナー姉さん!」
「いやぁ、ライラちゃん。今日も買い物かぃ?」
ライラに姉さんと呼ばれるこの女性は、この市で一番若く、年齢は20代前半のスタイルの良い人であった。周りからは、姉御の渾名で呼ばれている。
「いいえ、確かに買い物もするけれど、今日は王都へ行くの!」
「王都に? 一人で?」
心配そうにフェルナーが言うので、ライラはむっと唸り、頬を膨らました。
「私はもう子供じゃないよっ!」
「あっはっはっはっはっは! そうね、もうそんなに子供じゃないのね」
「むー! 絶対、まだ認めてないでしょ!」
「あっはっはっはっは!」
「むぅーー!」
地団駄を踏みつつ怒るライラを、フェルナーは笑った。すると、この市のいろんな店から笑い声が飛んでくる。ライラも怒っていたが、次第に笑顔になり、笑った。
フェルナーは、一頻り笑ったあと、ライラに言う。
「ふぅ……さぁて、それじゃあ向こうの2番目の荷馬車に乗りなぁ。」
「もぅ、最初から言ってよぉ…。」
「ごめんごめんっお詫びにいつものを用意しておいたから。」
そう言うと、フェルナーは奥からいろんな野菜を抱えて持ってきた。
「わぁ! すごく良い色してる!」
「ふふん、どぉ?」
自慢げにフェルナーは言うと、ライラはとびっきりの笑顔で「ありがとう!」と言った。
「そろそろ、出発するころねぇ…」
そう呟きながら、フェルナーはライラの買い物カバンに野菜を仕舞う。そして、それが終わると、ライラにカバンを差し出して言う。
「さ、早く行きなさい。ライラちゃんは楽しみにしてたのでしょ?」
「うん!……よっと……本当にありがとう、フェルナー姉さん!」
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
カバンを受け取ったライラは、後ろを振り向いて手を振り、走って荷馬車へと向かった。途中、転けそうになるのを見たフェルナーは、心配しつつ、一つ苦笑した。
「全く……危なっかしいねぇ……ふふっ」
★
「あり、ライラちゃんじゃあねぇべか。」
2番目の荷馬車に、ライラの事を知っているようなお爺さんがいた。
「あ、運び屋の爺ちゃん! おはよう!」
ライラも知っているのか、親しげに話を始めた。
「爺ちゃんが、2番目の荷馬車の運び人?」
「そうじゃ? じゃが、どうしてここへ?」
「今日は王都へ行くの!」
そう言うと、お爺さんは微笑んで言った。
「ほほう! そうなのか……。じゃあ、早く乗りなさい。」
「はーい! お願いしまーす!」
「ほほほ、元気があってよろしい!」
談笑しつつ、ライラは荷馬車に乗る。そして、お爺さんはそう言うと、馬車を動き出させた。布で品物が覆われており、その殆どが荷馬車を占めていた。必然的に、ライラは後ろ向きに馬車へと乗ることとなり、町がだんだん離れていくのを眺めていた。
「いいかい? ライラちゃん。」
「何? 爺ちゃん」
馬を操りながらお爺さんは喋る。
「例え何があっても、中央の大きな道に出てはいけないよ?」
「もぅ、分かってるよ。しっかり気をつけるもん」
お爺さんが言う中央の道とは、城や貴族の住む2層目から大きな門までを結ぶ大通りのことである。
一番端に平民達が、その隣を商人たちが荷馬車を通っている。そして、その平民達の道より数倍広く、とても綺麗に清掃されている道が王族、貴族の通り道となっているのだ。
「じゃが、もし出て貴族か騎士に見つかったら、どうなるか……」
「大丈夫だよ! 出ることなんてないし」
「そうかのぉ……」
「もう、心配し過ぎだって!」
「ほほほ、そうかもしれん。」
陽気にお爺さんは話すと、「しかしな?」と続ける。
「ワシもお主の父と同じ気持ちなのじゃ。まるで……うむ、孫のような存在じゃからな。」
「ふーん、私にはよくわからないや。」
ライラは空を見て、少し考えてみる。孫や子供ができる喜びについてだ。しかし、まだよく分からないので、素っ気無い返事をしてしまう。
しかし、それを聞いて、お爺さんは笑った。そして、「まぁ、子供じゃしな」と呟く。だが、ライラは聞こえなかったのか「え?」と聞き返す。
「ほほほ、何でもないよ。さて、少し早く行こうか。」
そう言って、お爺さんは上を指す。空は曇りつつあった。帰る頃には雨が降るだろう。お爺さんの荷馬車に揺られながら、ライラは話を続けた。
しばらくすると、大きな門が見えてくる。結構遠いはずなのに、それでも大きく見えた。これがこの国一の大きな城門である。ライラは、荷馬車から少し乗り出し気味でそれを眺めていた。
そして、城門にある小さな門でお爺さんと一緒に手続きをすると、そこから別れる。
「じゃあ、また後でね!」
「ほっほっほ、気をつけるんじゃよ~?」
手を振るお爺さんに、ライラも元気よく振り返す。そのまま数歩走り、ライラは人ごみの中へと溶け込んだ。
誤字 脱字 誤文 等がありましたら、ご報告お願いします。
それと、私は語彙力が低いため、表現に誤りがあったり、気になる点があったりするかもしれません。その場合も、報告お願いします!
ありがとうございました。