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かすみそうの詩

名前を呼んで。

作者: 夕月 星夜


彼と私はいわゆる幼馴染だ。

小さい頃は私の後ろに隠れて泣くような男の子だった。

私と言えば、まあ生意気と言うか、妙に大人ぶった子供だったように思う。

だから、頼られるのが嬉しくて、私が守りたいなんて思って。


それから、彼は少し離れた場所に引っ越して、小学校も中学校も別の場所になってしまった。

それでも彼の家に泊まりに行ったりするような、そんな親しい友人だと私は思ってて。

だけど、彼にとっては違ったようだ。


今思えば小学校六年生の時からその兆候は見えていた。

私と話す時に視線をそらしたり、そっぽを向いたり。

中学に入ると顔を合わせる事も嫌がるようで、さっさと自分の部屋に籠ったり。

そうなると、流石の私でも避けられてるって気づいて。


うん。正直、さみしかった。


今思えば思春期の男子が女子を避けるようなものなのかな?

でも、二十才を超えた今でも避けられてるから、どうなのかわからない。


あんまりにもさみしくて、視線をそらされるのが哀しくて、一回とっ捕まえて「私を避けないでよ、幼馴染って呼べるの、もう君しかいないんだから」って半泣きで訴えた事もあったなぁ……

あの時はわかったって言ってくれたけど、あんまり変わらなかったしな。


……彼に対して恋愛感情がないかと言われたら、それは嘘になる。

小さい頃はやっぱり彼が一番好きだったし、今でも彼以上にかっこいいなと思える人はいない。

だけど、それだけの事。


今の私にはちゃんと恋人がいるし、間違っても変な気は起こさないよ。

彼にも何人か彼女がいたらしいって聞いたしね。

私達はきっとこの先も幼馴染のままでいられるんじゃないかな。


だからね、いい加減そろそろまともに口きいてくれないかな?

けっこうさみしいんだよ? 知ってる?

無視されるのもそっぽ向かれるのも、辛いんだよ?


はっきり言って、私は口も性格も悪いから、外で話したくないって思うのかもしれないけどさ。

私君のお母さんと妹ちゃんとも仲いいから、家に行ったりするじゃん。

その時くらいはさ、少しくらい世間話でもいいから口きいてくれないかなぁ。


だってさ、私、忘れちゃったんだよ。


君が、私をなんて呼んでいてくれたのか。

ねえ、教えてくれないかな。君が私をなんて呼んでいたのか。

せめて、それくらいは、思い出の縁にしてもいいでしょう?


教えてよ。私の大切な幼馴染君。

これが最後のワガママだから。

君の声で、私を呼んで。


名前を呼んで。




.


ちょっとした解説


この主人公にはまだどこか幼馴染への想いが残っているのだと思います。

だからこそ、名前を読んで貰う事で、全部思い出にしようとしているのではないかと。

まだ好きとかじゃなくて、迷子になったかつての恋心に決着をつけたい、そんな深層心理が働いているんだと思います。


若干のそこはかとない切なさを感じて頂ければ幸いです。

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