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最終レース

作者: 豊羽浩光

俺は何の為に生まれて来たのだろう……?

コックピットに座り、離陸の準備をしながら、ふとそんな事を考えていた。

今まで特に何にも熱中せず、何かをやり遂げる訳でもなく、ただ何となく生きてきた。

自分は何の為に生まれてきたのだろうか?


ただ分かる事は、俺は今日この世から居なくなってしまう事だ。


今はアメリカとの戦争の真っ最中。

日本は太平洋の各地で敗退を続けて、日本列島本土も空襲によって次々と廃墟と化していった。

今日ここから飛び立つと、二度と帰る事の無い旅に出る。

そう、俺は特別攻撃隊である。



周りの飛行機は次々と発動機を回して飛び立っていった。

そして、俺も仲間たちと一緒に離陸した。


飛行中、時々発動機が息をついていた。

近頃の飛行機はボロになった物だ。

特に、特攻に行かされる飛行機はその中でも旧型な物なのだ。

散々こき使われて最後は使い捨てにされる俺の相棒に少し同情した。

しかし、それでも一生懸命飛んでいた。

いや、俺なんかが同情する資格は無いのかもしれない。


俺は小さい頃はマラソンの選手になりたかった。

でも、根性が無くて、辛くなったら直ぐに投げ出してリタイアしてしまっていた。

そうしている内に、勝負から逃げる事に慣れてしまい、いつしか夢も見なくなっていた。

いや、夢だけじゃ無い、私生活でもそうだった。

普段から仲好くしていて、いつしか好きになっていた娘にも、もし振られたら友達のままですらいられなくなるのではないか?

そう考えてしまうと、怖くて、結局告白出来ないまま終わってしまっていた。



「編隊上方2時の方向、敵戦闘機隊です!」

まだ偵察機とは出くわしてない筈なのだが、もう敵機が迎撃に来たみたいだ。

レーダーで探知されていたのだろう。

護衛の戦闘機隊が増槽(補助の燃料タンク)を落として、戦闘が始まった。

今自分が乗っている機も、本来は戦闘機なのだが、今は重い爆弾を抱えてるので、逃げる事しか出来ない。

しかし、護衛の戦闘機は敵に比べると少なく、パイロットの技量も劣っている為、あっという間に後ろにつかれてしまった。

速度を上げたいが、エンジンの調子が悪く、なかなか出力が上がらない。

「もうこれまでか……」

そう諦め掛けた時、敵機の更に後ろに味方の戦闘機がついた。

しかし、敵機に向かって弾は撃たず、そのまま体当たりした。

「そんな……」

助けてくれた味方機はもう弾が無かったのだろう。

精一杯戦った上、最後は自らを犠牲にして戦ってくれた事に、また諦め掛けていた自分が情けなくなった。

「もう今回は絶対諦めない! 今度こそ絶対にゴールまで辿り着いてやる!!」

そう思い直して、敵艦隊を目指した。


それからも、敵機の追撃を受けたが、必死に射線をかわしながら突き進んだ。

初めてのゴールに向かって、必死に進んだ。


そして、遂に敵艦隊が見えた。

追い掛けて来た敵機の攻撃と敵艦隊からの対空射撃を受け、機体にも、そして自分の体にも幾つか穴が空いたが、最後まで諦めないで駆け抜ける。


遂にゴールが間近に迫った。

エンジンは火を吹き、意識は遠のいていったが、最後の力を振り絞り、的空母にめがけて急降下した。


すると、愛機のエンジンから「ヴォォーン……」と悲しげな音が聞こえた。

「そうか、お前も悔しいのか。」

俺には何故悲しげな声を上げているのか分かった。


きっとこの飛行機もこの様な形ではなく、戦闘機として戦って、戦って、最後まで戦い抜きたかったはずだ。


俺もそうだ。

もっと今までも諦めずにゴールを目指せば良かった。

そうすれば、自分で人生を変えられただろうし、何かをこの世界に残せたと思う。

人間として生まれて来た以上、もっと別の事でゴールを目指したかった。


死ぬ直前まで、気付けなかった事が悔しい。

いや、死ぬ直前にならないければ気付けないのかも知れないけど……


もし、もう一度人生がやり直せるなら、もっと本気で向き合いたいと思う。



俺と愛機はそんな叶わぬ事を思いながら、血の涙を流した……


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