第21話:【すれ違い】「洗脳されているのか!?」「違う、これはおもてなしだ!」
深夜の特等VIPルーム。
ウゥゥゥゥゥゥ――ッ! とけたたましい警報ブザーが鳴り響き、天井の魔導非常灯が赤く点滅していた。
その緊迫した空気の中、ユリウスとシルフィアの会話は、完全に異次元の平行線をたどっていた。
「シルフィア様! 私がお分かりになりませんか!? 貴女の忠実なる騎士、ユリウスです! 目を覚ましてください!」
ユリウスは聖剣を構えたまま、悲痛な顔で訴えかける。
「分かっている! お前がユリウスであることくらい百も承知だ!」
シルフィアはハーブティーのマグカップを両手で持ったまま、必死に説得を試みる。
「頼むから剣を引いてくれ! 私は洗脳などされていない! 正気だ!」
「嘘を仰らないでください! 正気な貴女が、敵の用意したネグリジェを着て、敵の差し出した甘いお茶を飲むはずがありません!」
「だ、だからそれは……っ! 飲むつもりはなかったのだが、香りが良くて、一口飲んだら美味しくて、身体が温まってしまっただけで……!」
「ほら見ろ! すでに敵の毒牙に冒されているではないですか!!」
ユリウスは目頭を押さえて絶叫した。
「なんと卑劣な……! 誇り高きグランベルスの姫君に、そんな『美味しかったから飲んだ』などという無防備な言い訳を言わせるなど……! どのような精神誘導術式を使えば、これほど完璧に知性と羞恥心を奪えるのだ……!」
「私の知性と羞恥心は奪われていない! 現に今、死ぬほど恥ずかしい!!」
シルフィアの顔が茹で蛸のように真っ赤に沸騰する。
「おいたわしや……! 恥じらいの感情すらオークに利用されているのですね……! お許しくださいシルフィア様、たとえ手荒な真似をしてでも、貴女の清らかな魂をお救いいたします!」
「人の話を聞けと言っているだろうがぁぁぁぁっ!!」
そこへ――。
バァァァァンッ! と部屋の正面扉が左右に開け放たれた。
「やあやあ、夜分遅くに賑やかですね。お客様の来訪かな?」
現れたのは、白衣を羽織り、手にクリップボードと測定器を持ったゼノだった。
その背後には、大戦斧を担いだバールック大佐、そしてモーニングサテンのガウンを羽織った数十名の筋骨隆々たるオーク護衛部隊がズラリと立ち並んでいる。
「き、貴様が……!」
ユリウスが血走った瞳でゼノを睨みつけた。
「貴様が、帝国アカデミーを追放された破廉恥マッドサイエンティスト、ゼノ・フォルスターか! オークの怪異に魂を売り、シルフィア様をこんな忌まわしい精神汚染実験の生贄にするとは……万死に値する外道め!」
「おや、私の悪名も帝都の若き騎士たちにまで届いていましたか」
俺は眼鏡のブリッジを押し上げ、冷ややかに微笑んだ。
「訂正してもらおうか。私は魂を売ったのではない、正当な研究予算と設備を提供してくれる理解者と共同研究をしているだけだ。そしてシルフィア君は生贄などではない。当研究所の『終身名誉S級高出力発電リアクター』だ」
「発電リアクターだとぉぉぉっ!?」
ユリウスの怒りが頂点に達した。
「貴様ぁぁぁっ! シルフィア様を機械のように扱いおって! 全聖騎士隊、突撃ぃぃぃっ! あの外道マッドサイエンティストの首を刎ね、シルフィア様をお救いするのだ!!」
「「「オオオオオオオッ!!」」」
三十名の聖騎士たちが、聖なるオーラを刀身に宿らせ、一斉に切りかかってきた。
部屋を埋め尽くす白銀の刃と殺気。
だが、俺は一歩も引かず、胸ポケットから新型の携帯端末を取り出した。
「シルフィア君。君の元同僚たちが、無謀にも我が研究所に刃を向けているよ。……君の叫びが、彼らの命を救うことになるかもしれないね」
「な……っ!?」
シルフィアが息を呑んだ瞬間、俺は端末のスピーカーのスイッチを入れたのだった。
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