第13話:【一撃粉砕】完成! 決戦主砲『屈高収束魔導砲(くっ殺キャノン)』
研究所の最上階、特設砲撃デッキ。
青空の下に鎮座していたのは、全長十五メートルを超える巨大な魔導砲だった。
形式番号『KC-99』――制式名称『屈高収束魔導砲』。通称『くっ殺キャノン』。
無骨な黒鉄の砲身には幾重もの魔導回路が刻まれ、砲尾には人が一人座れる天蓋付きの快適なシートと、太いエネルギー伝導ケーブルが接続されている。
「ゼノ先生! 準備完了だぜ! 照準は五キロ先、帝国の『アイゼンベルク前線要塞』だ!」
双眼鏡を構えたバールック大佐が、興奮を抑えきれない様子で叫ぶ。
アイゼンベルク要塞は、厚さ三メートルの魔導強化岩で築かれた帝国軍の不落の城砦だ。これまでオーク軍が何十回攻め込んでも、跳ね返されてきた因縁の防衛拠点である。
「うむ。砲身の冷却システム、魔力収束レンズ、すべてグリーンだ」
俺は白衣を翻し、砲尾のシートを振り返った。
そこには、フリル付きの清潔なワンピースに着替えさせられたシルフィアが、拘束ベルトで優しく固定されて座っていた。頭部には、PCEを逃さず集光するティアラ型の電極端子がセットされている。
「き、貴様ら……私をこんな奇妙な機械に縛り付けて、何をする気だ……!?」
シルフィアが警戒露わに身をよじる。
「何、ちょっとしたエネルギー変換の実験ですよ。シルフィア君、朝食のフレンチトーストはお口に合いましたか?」
「な……っ! 美味しかったが……いや! 騙されんぞ! 話を変えるな!」
「では本題に入りましょう」
俺は真顔になり、懐から一枚のカラー写真(魔導幻灯画)を取り出して、彼女の目の前に突きつけた。
「シルフィア君。君が帝都にいた頃、週に一度だけ密かに通っていた老舗洋菓子店『ベル・エポック』の限定スイーツ――『三層仕立てのプレミアム・極上ショートケーキ』を覚えているかね?」
「…………えっ?」
シルフィアの碧眼が丸くなった。
「な、なぜそれを……!? あれは私の唯一の私生活の楽しみで、誰にも言ってないはず……!」
「昨日、帝都からの補給物資を積んだ輸送馬車を我が軍が拿捕しましてね。その中に、君宛てにグランベルス公爵家から送られた、保冷魔導箱入りの極上ショートケーキが一個だけ入っていたのですよ」
「あ……あぁぁぁっ! お父様が私の誕生日のために手配してくださったケーキ……!」
シルフィアの顔がパッと輝いた。
「よかった……無事だったのですね! 返してください、それだけは私の――」
「先ほど、バールック大佐が一口で全部食べました」
「………………は?」
シルフィアの時が止まった。
バールックがすかさず、満面の笑みで親指を立てる。
「ガハハ! イチゴが甘酸っぱくて、生クリームがふわっふわで最高に美味かったぜお嬢ちゃん! オークの胃袋に染み渡ったぜ!」
「イチゴ……生クリーム……オークの胃袋……?」
シルフィアの瞳からハイライトが消えた。
次の瞬間、彼女の白銀のオーラが、怒りと絶望と屈辱によってドス黒い黄金の嵐へと変貌した。
「わ……私の……私のケーキをぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! お父様の愛が詰まった、年に一度のイチゴショートをぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
シルフィアの白い肌が朱に染まり、目角に大粒の涙が浮かぶ。
プライドの臨界点が、音を立てて粉々に砕け散った。
「オークの分際でぇぇぇっ! 恥を知れ! こんな辱めを受けるくらいなら……死んでやる! くっ……殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
ピピピピピピピピピピピピ――ドガァァァァァァンッ!!
俺の手元の測定器が煙を吹き出し、文字盤が弾け飛んだ。
【計測値:148,000クック(極限Ω波・ショートケーキ崩壊臨界)を検知!】
「エネルギー充填率、三百パーセント突破!! くっ殺キャノン――発射ぁぁぁっ!!」
俺が砲撃レバーを一気に引き倒した。
ズドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
天地を揺るがす轟音が炸裂した。
十五メートルの砲口から放たれたのは、直径三メートルの純白と黄金の極太熱線レーザー。
音速の数十倍の速度で平原を駆け抜けた光線は、五キロ先にあるアイゼンベルク前線要塞を、文字通り『直撃』した。
――カッ、と世界が真っ白に染まる。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
巨大なキノコ雲が立ち上り、凄まじい衝撃波が五キロ離れたこちらのデッキまで吹き荒れてきた。
煙が晴れた後――。
そこにそびえ立っていたはずの、厚さ三メートルの魔導強化岩でできた巨大城砦は、土台の山ごと綺麗さっぱり消滅し、巨大なすり鉢状のクレーターだけが残されていた。
「「「………………!!????」」」
バールック大佐の双眼鏡が手から滑り落ち、地面で砕けた。
ガルガドス師団長は天幕から飛び出し、要塞があったはずの更地を見て白目を剥いて卒倒した。
そして――。
砲尾のシートで涙目で呆然としているシルフィアだけが、震える声で呟いた。
「えっ……? 砦が……私のケーキの叫びで……消えた……?」
「実験大成功だ!」
俺はガッツポーズを掲げ、快哉を叫んだ。
「素晴らしいぞシルフィア君! 君のショートケーキへの執着が生み出した奇跡の破壊力だ! この兵器があれば、帝都攻略も夢ではない!」
「私のせいで味方の砦が消えたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
姫騎士の悲痛な叫び声が、青空高く木霊していったのだった。
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