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5.忌中

私の名前は辻友紀乃。

辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。

旦那は「腹上死」した。嘘。

本当は、がんだった。

膵臓がん、って奴だ。

私は、鍼灸師で柔道整復師だ。


 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。

 絹田小五郎・・・辻鍼灸治療院の常連。

 =====================================


 私の名前は辻友紀乃。

 辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。

 旦那は「腹上死」した。嘘。

 本当は、がんだった。

 膵臓がん、って奴だ。

 私は、鍼灸師で柔道整復師だ。

 お馴染みさんは、これでも多い方だ。

 今日は、「お馴染みさん」の話。

「絹田さん、終ったで。

 私は、『起き上がりヘルパー』を絹田の前に置いた。

 前にインターネットで購入したものだ。

 今は、インターネットで色々買える。

 患者は、人によっては、ベッドより布団がいい、という人もいる。

 ここは、病院や診療所ではない。色々と患者に会わせる。

 ベッドに寝ると痛いと言う場合、布団を敷く。

 基本的に『風俗マッサージ』ではない。密室には違い無いが、暗黙のルールも公然のルールもある。

 絹田は、十津川整形外科の紹介だ。とは言え、提携はしていない。従って、同意書は、荒田内科ほかを紹介して、患者に運ばせる。

 十津川先生は、開業した時が同じ頃で、橋を挟んで近いから親しくなった。

 だが、外科・整形外科は『東洋医学』を真っ向から否定する。

「すまんな。学会や組合の決まりやねん。」と先生は言う。

 理解はしていても、押さえつけられているのでは相方がない。

 基本的に診療所やクリニックは大病院と違って考え方が柔軟だ。

 外科的なリハビリで効果が上がらず、患者が困っているのを見ると、先生は、「そう言えば橋の向こうに鍼灸院の看板が出てたなあ。」と、『独り言』を言ってくれる。

 鈍くない患者は、まっすぐ、こちらに向かう。

 絹田の場合は、『脊柱管狭窄症』。しかも、膝の軟骨がすり減ってしまっている。

 病院では、患者をモルモットにする為、手術を勧める。

 だが、開業医は勧めない。『人工関節手術は成功しない』のが定説だからである。

 同じ西洋医学でも、アメリカでは無理に勧めない、十津川先生は言っていた。

 そもそも、骨から痛みが出ているのではなく、『神経』が刺激されて痛むのだ。詰まり、緩和治療が必要だ。

 ウチは、『吸盤』もやるし、『電気針』もする。だが、絹田の場合は、緩和する必要があるから、常時は針とマッサージ、1ヶ月に一度は『矯正』を行う。

 矯正は連続して施術すると、却って危険だ。それに、保険が効かない。

 この業界でも、外部圧力で方向を変えることがある。

 肩こりがきつい人には、『足踏み』が効果的だが、『医療事故』によって禁止になった。

 あばらが折れたのだ。こういう事故は、西洋医学と東洋医学がカップリングしていれば起きなかった筈なのだ。

 施術者の体重が重すぎたのではなく、元々骨にヒビが入っていた。

 その事故の施術者が修行中で未熟だったことも災いした。

『無資格者』に治療させた、と週刊誌が書き立てた。免状がまだ到着していなかっただけなのに。

『起き上がりヘルパー』から起きた絹田は、『立ち座り』の自己練習をする。

 実は、この技は、私の技ではない。十津川整形外科でのリハビリで行っていることだ。

 私は、東洋医学を否定する医師のように、西洋医学を否定するような『下品』なことはしない。有効な手段があれば、登用する。

 この『立ち座り』は、ニョキっと生えるような立ち方ではなく、先ず『前傾姿勢』になり、尻を持ち上げながら、ゆっくりと立つ動作をする。

 すると、体重移動(重心移動)を応用するので、膝の負担が少ない。

 健常な体では、いつでも、ニョキっと立てるが、病気持ちには辛いのだ。

 運動を終えた、絹田に私は声をかける。

「さっさと着替えや。その『反応』した部分もなおしや。」

「せやけど、先生、別嬪やもん。体ほぐれたら、反応しますやん。言われません?」

「いつも言われる。私の豊満な胸で妄想するんやろ?妄想では、別料金は取らんよ。」

「ああ、先生。『忌中』の紙、取るのを忘れてましたわ。」

「満中陰はいつやった?」「12月です。」「遅すぎるやろ。外したんか?」「外しました。」

「ったく、ボンボンやから。」

 料金を払うと、絹田はご機嫌で帰って行った。

 女性の仕事は、皆、「妄想のネタ」にはなるだろう。大抵の男はそうだ。

 境界線を越えると、犯罪になる。

 幸田の客でも、みっともない言い訳する奴がいる、と聞いている。

 絹田の次の客が、狭い待合室から入って来た。

「先生、まあ、聞いて下さい。」

「聞くから、早く脱ぎや。脱ぐのはセルフサービスや。」

 ―完―




料金を払うと、絹田はご機嫌で帰って行った。

女性の仕事は、皆、「妄想のネタ」にはなるだろう。大抵の男はそうだ。


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