4.パーフェクトレディ
====== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
幸田仙太郎・・・南部興信所所員。辻先輩には頭が上がらない。
柳金吾・・・辻鍼灸治療院の常連。
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私の名前は辻友紀乃。
辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
旦那は「腹上死」した。嘘。
本当は、がんだった。
膵臓がん、って奴だ。
私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
お馴染みさんは、これでも多い方だ。
今日は、「いちげんさん」と「お馴染みさん」の話。
まずは、「いちげんさん」。
衣類を脱がずに、学生は質問してきた。
「針は痛くないのですか?」
定番の質問だ。「よく大きな注射針を想像する人がいますが、これだけ細いんですよ。」
学生は、目を見張った。「入らないでしょう。こんな細いのは。」
私は、消毒液で拭ってから、自分の腕に刺した。
「こんな感じ。どこを治療したいの?」「ふうん・・・あ、肩こりが酷くて。」
「自覚症状があるのね。何かに当たったって怪我をしたとかじゃないのね。」
私は、彼の、お名前カードと学生証をコピーして、彼に返した。それを見た彼は、「あの。健康保険、効きますか?『お名前カードはお名前保険証カードです。』」
「ごめんね。基本的には健康保険は効かないのよ。実費。でも、継続的な治療なら、お医者さんの『同意書』があれば保険治療が出来るのよ。慢性的に肩こりがあるの?」
「先週、3日くらい徹夜して、調子が悪いんです。」「試験?」「まあ・・・そうです。保険効かないなら、いいです。」
「一時的な肩こりなら、オマケしてもいいわよ。」「要らないよ、ブス、ブス!!」
「保険治療で肩こり治したいなら、川向こうの十津川整形外科に行きなさい。」
彼は、返事をせず、出て行った。
私は、念の為、十津川整形外科に電話して、事情を話した。
院長は笑いながら、「学生なら、まあ世間知らずだろうな。もし来たら、ちゃんと治療するよ。」と言った。
何か変だ。電話を切った私は、興信所所員である、後輩の幸田を呼び出した。
前にあんな感じの患者を治療したが、その患者は所謂『オレオレ詐欺』の受け子だった。
ひょっとしたら、と思ったのだ。
幸田がやってくると、恒例の「儀式」を行った。
羽交い締めにして、「私と100回セックスするのと・・・。」と言いかけたら、幸田は思わず「願い事。」と叫んだ。
幸田が調査を引き受けて、帰るのと入れ替わりに、常連の柳が現れた。
丁度、予約の時間だ。予約は基本だが、時間があれば、予約外でも治療する。
どこの治療院もそうだ。
「誰かの浮気調査ですか?」と衣類を脱ぎながら柳が言った。
柳は、幸田とも顔なじみだ。
「いや、ちゃうねん。」と、柳の体に針を刺し、電極を繋ぎながら、私は言った。
人の体は、それぞれ違う。治療も相性がある。ウチは、電気針もお灸も、吸盤も使う。
外科・整形外科系の「西洋医学」の医者は、学会の方針で「東洋医学」を蔑視する。
マラソンランナーやアスリートが、試合中に針を刺して続行した話なぞ知らないのだろう。
意外にも、外国人の方が「東洋医学」を尊重・尊敬している。
柳に事情を話してやると、「先生のカンは、よう当たるからなあ。身長172センチ。65キロ、バスト90センチ、ウエスト60センチ、ヒップ95センチのパーフェクトレディに『ブス』は酷い表現。ドラマで主役張れる美貌やのに、失礼過ぎる。」
「ありがとう、柳さん。でも、ウエストは59センチや。しかし、何で体型分かるんや。」
「目分量。スケベやから。」
「スケベは否定出きんな。ちょっと、情緒不安定やから、心配でな。ウチの患者やないけど。」
午後8時。深夜の予約患者に備えて夕食をとりながら、テレビをつけたら、ニュースで『特殊詐欺グループ全員検挙』とテロップが流れた。逮捕された者の中に、あの子もいた。
やっぱりか。
午後9時。
遅い時間専門の患者が来た。
水商売の女性。出勤前なのだろう。
彼女の得意な芸能人ネタで盛り上がる。「一億?目ええ飛び出るな!!」
午後10時。
静かな閉店。
さあ、風呂沸かすか。
―完―
「中年探偵幸田の日記」シリーズのスピンオフ作品です。