3.惨めな死
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
幸田仙太郎・・・南部興信所所員。辻先輩には頭が上がらない。
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私の名前は辻友紀乃。
辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
旦那は「腹上死」した。嘘。
本当は、がんだった。
膵臓がん、って奴だ。
私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
お馴染みさんは、これでも多い方だ。
今日も、長い付き合いの瀬戸内輝男がやってきた。
「どや、瀬戸内さん。調子は、良くなった?」
「はい。お陰さんで。先生。湯田さん言う人知ってはります?」
「ああ。湯田さんとも長い付き合いでなあ。以前、大阪で仕事してはった時、近くのアパートに住んではったんや。引っ越してからも1ヶ月に1回、来てくれた。今の住まいの近くの鍼灸では、物足りんなって言うから、鍼灸より『矯正』にしてあげてたけど、ここ半年音沙汰なしや。Linenにメッセージ送っても返って来ないしなあ。」
「その、湯田さん。亡くなったらしい。私は、嫁の実家があの近く、大鳥大社の近くでな。昨日亡くなって、今夜『お通夜』らしいから、今夜嫁連れて行ってきますわ。」
「後で、どうしたたんか話、聞かせて貰えます?遅なってもええし。」
「了解です。」
午後9時。
瀬戸内から電話がかかって来た。
「先生。エライことになってましたわ。お通夜に行ったら、弔問客は私ら2人だけ。焼香済んで、嫁がトイレ行ってる間に罵声が飛び交うのを聞いたんです。」
「罵声?あの『へんこ』か。そうか、あの『へんこ』のせいで来なくなった、ということか。」
「『へんこ』?ああ、あの弟嫁ですか。その『へんこ』が喪主してましたわ。」
「え?おにいさんは?湯田さん、次男さんで、長男さんがいてはるから、喪主は一郎さんと違うの?三男の三郎さんの嫁の唄子?『へんこ』?」
「何でも、湯田次郎さんは、枡柿の最中に亡くなったらしい。はっきり痕跡があったから、救急隊員さんが脳卒中やろうって。興奮して昇天したんやろうって。」
「それで、怒るんか、あの『へんこ』は。あのな、瀬戸内さん。あの弟嫁は、ここに乗り込んで来て、治療代、高すぎる、ぼってるやろうって言うたんや。瀬戸内さんも知っての通り、鍼灸は同意書あったら、『医者の補助』ちゅう名目で健康保険効くけど、柔道整復師の施術は認められてへんから実費やねん。私の説明に納得したんと思ってたが・・・。どこまでも出しゃばりやな。あの『へんこ』は。あ、明日、予約で一杯やったなあ。」
私は、すぐに幸田に電話をして、呼び寄せた。
事情を聞いた幸田は、「ほな、明日は午後の仕事休んで行ってきますわ。」と言い、その場で所長に事情を説明した。
「何やったら休んでもええけどな。まあ、告別式は午後からやわな。湯田さんって言うたな。喉仏に大きなホクロある人かどうか、先生に聞いてみて。」
所長の言う通りなので、私はスマホに顔を近づけて、「所長さんも知ってる人?」と尋ねた。
「ああ、昔、ちょっとな。幸田、興信所のみんなの名前、記帳してきて、香典代も後で精算するから立て替えて。」
幸田が電話を切ると、私は、分厚い封筒を出した。
「落としなや。」「かなりのお得意さんでしたか?」
「私も恩があるねん。でも、『へんこ』と会ったら、喧嘩になる。それに明日は予約一杯やねん。幸田、頼むわ。」
「了解です。」
幸田が帰ると、風呂の用意をして、私は、昔を思い出していた。
―完―
========「中年探偵幸田の日記77」に続く============
※「へんこ」とは関西地方の方言で「頑固者、偏屈者」という意味である。
「偏屈たす頑固」と言う者もいる。兎に角、回りが「手を焼く」人間のことだ。
実体験を題材にしています。