11.税務署
「どうやった?相続手続きは?」
「私が代表相続人になった遺産相続の分配金は、私の口座から姉妹に移しました。でも、困ったことが・・・。」
「どうしたん?」
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
辻友紀乃・・・鍼灸師。柔道整復師。高校の茶道部後輩、幸田仙太郎を時々呼び出して『可愛がって』いる。
冬馬晴喜・・・辻鍼灸治療院の常連。(当麻優雅とは無関係)
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※このエピソードは、「鍼灸師辻友紀乃ー番外編」の続編です。
※振込と振替の違い
「振替」とは、お支払口座と同一名義かつ同一店舗にある口座に振込を行うことをいいます。 それ以外の振込を「振込」といいます。
私の名前は辻友紀乃。
辻は、所謂通り名。そして、旧姓。戸籍上は「大下」。
旦那は「腹上死」した。嘘。
本当は、がんだった。
膵臓がん、って奴だ。
私は、鍼灸師で柔道整復師だ。
お馴染みさんは、これでも多い方だ。
今日も、「お馴染みさん」の話。
「どうやった?相続手続きは?」
「私が代表相続人になった遺産相続の分配金は、私の口座から姉妹に移しました。でも、困ったことが・・・。」
「どうしたん?」
「私の言い方が悪かったのか、郵便局員さんが、振込手続きしようとしているのに、こっちの方がいい、って言い出して振替手続きで姉妹に渡したんです。出金用紙と入金用紙で、架空の金額写し替えをしてしまったんです。行政書士さんがカンカンなんです。最後に贈与税かかってもウチらは関係無いので、なんて言うからおかしいな、って思ったんです。確かに、私の通帳には「振替」って書いてあるけど、相手先の姉や妹の名前がない。勝手に『生前贈与』の手続きに変更されてしまったら、税務署から『申告漏れ』請求が来るかも知れないんです。」
「分かった。脱がなくていい。今日の予定はもうキャンセル。臨時休業や。」
私は、すぐに幸田に電話した。
「そういう事情や。すぐ迎えに来てくれ。本庄弁護士に会わせてくれ。」
「わ・・・分かりました。」
幸田は、いい後輩や。仕事の途中でも、放り出して駆けつける奴や。
私は、南部興信所で、本庄弁護士に冬馬を面会させた。
「遺産分割協議書を作ってあるのよね、冬馬さん。」
「はい。税務署から問い合わせがあったら、遺産分割協議書の書類を一切合切見せなさい。振替処理をしていても、遺産相続に関する振込をしようとしていたのだから、胸を張っていればいいのよ。税務署員が来るなら、私を呼んで下さい。立ち会ってあげる。」
冬馬は、その場で平伏した。
「大袈裟ね。もし、裁判起こしたかったら、その時も言って来て。その局員は、説明責任を果たさず、『未必の故意』で税務署に税金を払わせようとしたのは。明白よ。」
「良かったな、冬馬。幸田、よくやった。頭撫でたろう。」
「いえ、先輩のお気持ちだけで胸一杯です。」
私達は、意気揚々と幸田のクルマで帰った。
人間は言葉を使う。言葉で「幸福」にすることもあれば、「不幸」にすることもある。
人間関係は大切や。
1ヶ月後。
幸田と本庄先生がやってきた。
「先輩。冬馬さんの件で、進展がありました。当該局員はクビを括って自宅で死にました。自殺です。遺書もありました。」
「監査があったのよ。冬馬さんは、悩んでいる途中、郵便局の本局、詰まり管轄部局のホームページの『問い合わせ』に告発していたの。実名を出さずにね。で、監査で『事実無根です。名誉毀損です。』と言い、同僚に裁判に訴えると言っていたそうよ。局長は、懇願されて偽証していたことを認めたわ。良心の呵責の結果、と言いたいけれど、依願退職を勧められた結果よ。因果応報ね。」
隣の治療室から、啜り泣く声が聞こえた。
その時間の患者は冬馬だった。
冬馬に、やっと、春が来た。
―完―
「先輩。冬馬さんの件で、進展がありました。当該局員はクビを括って自宅で死にました。自殺です。遺書もありました。」




