プロローグ
暗い暗い森の中には,龍の神様が住んでいる神社があるのです.
そこには何人たりとも立ち入ってはなりません.
神様の住んでいる場所だからです.
神様は,気まぐれですから,入れたからといって,出れるとは限りません.
小さい時の夢を見た.
それは,何度も何度も,昔から繰り返し見た夢.
大好きな幼馴染が,みぃちゃんが行方不明になった日の夢.
さっきまで一緒にいたはずなのに,後ろを振り向くといなくなっていた.
いつも行く公園,家,森,神社.
どこを探しても見つからない.
俺がどこを探しても,みぃちゃんはどこにもいなくて.
俺は,神社の階段に座り込んで泣いている.
俯いて,1人で泣いてた.
そして,ぱっと顔を上げるといつのまにか,隣に綺麗な人が座っていた.
俺たちの住んでいる村では,見たことがないほど綺麗な人で.
例えるなら,そう、、、神様のような,真っ白な綺麗な人.
その人は,驚いて涙の止まった俺の顔を見て,ニコニコしている.
俺は,この人は神様なんだと思った.
きっと,この人がみぃちゃんをどこかに連れて行ったのだと思った.
小さな子供の安易な考えだ.
俺は,綺麗な人に,未来を返してほしいとお願いした.
その人は,俺の言葉がわからないのか,ニコニコしながら,首を傾げる.
その人の微笑みを見ていると,なぜか俺は,悲しくなった.
悲しくなった俺は,また,涙をポロポロと流してしまう.
そんな俺を見て,その人は,オロオロと,立ち上がって,俺の周りをぐるぐると周り,慰めるような動きをする.
そして困ったように,綺麗な飴玉のような瞳から,真珠のような涙が一粒こぼれ落ちた.
その涙が俺の口に入った.
その涙は,とても甘くて,幸せのような味がした.
そしてその人は,最後にニコッと俺に泣き笑いを向け,どこかへ,歩いて行った.
そのすぐ後,神社の境内で眠っているみぃちゃんを見つけた.
あの人は,誰だったのか.
俺は今でもあの人は,神様だったんだと思う.
私たちは見ています.
今日も見ています.
あなたを見てはいません.
あの子を見ています.
あの子を見ていません.
あなたを見ています.
あなたの幸せを祈っています.
あの子の不幸せを祈っています.
あなたを守りたいのです.
あの子から守りたいのです.
あなたには見えていないけど.
あの子にも見えていないけど.
私たちは見ています.
私たちには見えています.
忘れないで.
覚えていて.
忘れて.
見つけて.
探して.
見つけないで.
探さないで.
見ないで.
どうか,どうか,私を見ないで.