【べつのせかいのどこかのちかしつでのできごと】
「だれかがくるんだって」
『アオイトコロカラクルンダヨ』
「たすけてくれるんだって」
『コノセカイヲダヨ』
「でもだれかにはとってもだいじなこがいるんだって」
『ダレヨリモダイジナンダヨ』
「そのだいじなこのために」
『イノチヨリモダイジナソノコノタメニ』
「だれかはこのせかいこわしちゃうんだって」
『コワシチャウンダヨ』
「でもだいじょうぶだって」
『ダイジョウブダヨ』
「だってだいじなこがしあわせにしてくれるから」
『ダイジナコガタスケテクレルカラ』
「まものも」
『マジョモ』
「あくまも」
『ニンゲンモ』
「みんなみんなしあわせにしてくれるんだって」
『デモダレカハダイジナコヲタスケラレナインダヨ』
「だからたすけてあげてほしいんだって」
『ダイジナコヲタスケテアゲテヨ』
「せかいのために」
『ダレカノタメニ』
蝋燭が一本だけ灯されている薄暗い大きな部屋で,大きな机を囲んで座っている人影が2つあった.
一人は大きく飾られた椅子に座った太った男.
たくさんの指輪をつけた指で苛立ったように何度も机の縁を叩いている.
その向かいに顔を黒いベールで覆った女.
生気のない顔で水晶玉を見つめている.
部屋の時計の針と,男の指が立てる音だけがこの静かな部屋に響いている.
時計の針が十二を指した.
大きな音を立てて,鳩を模した玩具が飛び出す.
それと同時に,女は,椅子から転げ落ちた.
水晶に何か恐ろしいものでも見たのか,ガタガタと震える自分の体を抱きしめ,しゃがみ込んでいる.
机から,女の少し紫がかった水晶玉が転げ落ち机の下で割れた.
そんな女に男は冷たい目線を送る.
「何が見えた」
底冷えするような冷たい声で,男が女に問いかけた.
女の顔色,真っ白を超え,真っ青になる.
先ほどよりも体の震えが大きくなったように見えた.
震える膝をつき,床に額を擦り付け,蚊の泣くような声で男の質問に答える。
「蒼き世界から,我が国へ闇を祓い,光を与える者が現れる.このようなものがあの水晶にうつっておりました.」
男は女の言ったことに,満足げにうなずく.
そして,親指に付けていた赤い宝石のついた指輪の一つを女に向かって投げた.
「褒美だ、ソレを持ってさっさと立ち去れ」
女は指輪を拾い,男に深々とお辞儀をし,背を向け走り出す.
石造りの扉に手をかける.
その扉さえ開けば,外である.
しかし、押しても引いても少しも扉は動かない.
後ろから、足跡が近づいてくる.
女は焦ったように、扉に体を勢いよくぶつける.
それでも,扉は少しも開く気配を見せなかった.
足音が女の後ろで止まる.
女は震えたまま俯く.
「お主,本当は何が見えた?」
男が女に問いかけた.
女は震えたまま,そして俯いたまま答えない.
「お主ほどの者が,あの程度の予言でなぜあれほど震えていた?」
男はゆっくりと,腰についた剣を鞘から抜く.
「答えよ.答えぬのなら,おまえの首と胴体は泣き別れだ」
女は、胸に震える手を当てた.
カチャリとペンダントの音がなる。
女は何も言葉を発さない.
女の首元に男が剣先を向ける.
「最後だ,何が見えた?」
女は唇を強く噛み締める.
胸元のペンダントを握りしめ、男の目を真っ直ぐ見つめる.
「蒼き世界美しきもの影祓う,国を破りし,黒き勇者,月を割りしものたち,光を破り,この国の全てを彼らは壊し,救うだろう」
先ほどの震えた声ではなく,凛とした強い声で女入った.
男の顔から,表情が消える.
「この私の,私の国を奪われると言うことか?」
男の声が怒りで震える.
女はそんな男の瞳から目をそらさない.
「この国を壊すとは,勇者とは,一体どう言うことなんだ.」
男は,怒りを押し殺した声で女に問うた.
女は何も答えない.
「どういう意味だと言っている」
男は女に怒鳴る.
剣を女の首にむけて振りかぶる.
女は何も答えない.
ただ男の前で膝をつき,そして祈るように手を組み,男にふわりと笑いかける.
男の動きが止まる.
女はペンダントから何かを取り出し,口に含んだ.
そして,目を大きく見開き,少しの間身体をばたばたと震わせ,やがて動かなくなった.
男は,動かなくなった女に,怒りのあまり,剣を投げつける.
部屋にはまた,沈黙が訪れた.
時計の針の音だけが広い部屋にまた響き渡る.
すこししてから男は,何もなかったかのように,部屋から出ていった.
部屋には,割れた水晶と微笑みを浮かべたまま永遠の眠りについた,女の死体だけが残された.
すいしょうがわれたわれたわれたわれたわれたわれた
ボクラガデレタデレタデレタデレタデレタデレタデレタ
よばないとだれかを
アノコヲヨバナイト
あのこだけじゃない
ダイジナコモヨバナイト
せかいよりも
ダレカノタメニ
だいじなこよりも
セカイノタメニ?
このせかいは
ダレカノタメニ
たすけて
タスケテ
たすけて
タスケテ
ぼくらを
ボクタチヲ
このせかいを
コノクニヲ
たすけて タスケテ たすけて タスケテ たすけて タスケテ たすけて タスケテ たすけて タスケテ