第30話 頼もしい仲間たち
《エルガノフ視点》
可愛い貝殻のネックレスを手に取って見ていた僕の後ろから、不意にソウマの声が聞こえた。
「2人とも! ボクのために可愛いものを選んでくれるのは嬉しいけど、たくさん買ったらお金なくなっちゃうよ?」
いつもと違う子供っぽい口調にビックリしたけど、お陰で僕は我に返った。
恐る恐る辺りを見回すと、たくさんの人たちの視線が集まっていた。
うわぁっ、まずいことになってる!
エルガノフの図体で雑貨を漁ってたら、そりゃあ怪しまれるよね。
ところが、視線が集中しているのは僕ではなくてソウマの方だった。
そうか。ソウマの見た目なら可愛い雑貨が好きでもおかしくない。
彼が演技をして通行人の目を引きつけてくれたんだ。
僕はとっさに言葉を探した。
「そ、そうだな! 予算には限りがある。なんでもかんでも買うのはよしておこう! ベロニカ、行くぞ!」
「えっ、ちょっと! もう少し見たっていいじゃない!」
隣にいたベロニカの腕を引っ掴み、ソウマを伴って僕は雑貨屋から離れた。
ゼランとも合流して、4人で街の真ん中にある広場まで避難。
周りにいた人たちも、すぐ散っていってくれた。
「ふぅ。どうにかなったみたいだね」
ソウマがちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。
「いや、すまなかった。そ、その。人間界の文化には興味があったものでな。つい我を忘れてしまった」
僕は謝りながら、軽く言い訳を並べた。
無理がある理由だけど、なにも弁解しないよりはマシだと思いたい。
「そ、それならしょうがないな!」
「う、うん。せめて街にいる時は周りの人たちの目は気にした方がいいかもね!」
ゼランとソウマは少しよそよそしい態度ではあるけど、許してくれた。
まあ、エルガノフが可愛いアクセサリーに夢中になってた理由なんて、突っ込んで聞きたくはないか。
というか、またやらかしてしまった。
兄貴たちの影響で男子の趣味にどっぷり浸かった反動か、社会人になってからは可愛いもの好きにも目覚めちゃったんだよね。
カッコいいものや可愛いもの、何でも楽しめる感性なのは悪いことじゃないけど。
まさかこんな形で困らされることになるなんて、予想外もいいところだよぉ。
「目立たないように気をつけるのは構わないけど、まだお店に寄ってもいいわよね?」
ベロニカは雑貨を見るのを無理やり中断させられたせいか、ややご立腹みたい。
「そうだね。もうしばらくは自由時間を取れるんじゃないかな」
「良かったぁ。今度こそ色々見て回れるわね!」
ソウマの言葉を聞いて、ベロニカは喜び勇んで駆け出そうとする。
「待った! 勝手にどっか行くんじゃないぞ。4人で固まって行動しようぜ」
ゼランが慌ててベロニカを制止した。
「えぇ? もう、分かったわよっ」
不満そうにしながらも、ベロニカはゼランの言葉に従って足を止める。
なんだか修学旅行に来た仲良しグループのようなやり取りに、つい口元が緩んでしまう。
正体がバレないよう四天王のみんなとの会話は控えた方がいいと思っていたけど。
むしろ色々助けてくれるし、結構いいチームになって来たのかも。
「では、ゆっくり歩いて回るとするか」
一応僕が指示を出し、4人で街を巡ることにした。
◆
その後、僕たちは適当に時間を潰してからベロニカが行きたがっていた店で食事を取った。
久しぶりの海鮮料理を楽しめて、大満足。
お腹もいっぱいになったところで、僕たちは船の発着場に向かった。
孤島への定期便は基本的に地元の人間しか使わない。
でも、今回はソウマが用意してくれた冒険者ライセンス(偽物)のおかげですんなり船に乗ることができた。
そして、陽が落ちる前には無事に目的の島へ到着した。
ところが、陸に着くなりベロニカが真っ先に船から降りた。
彼女は青い顔をして口元に手を当てる。
「うぅ、結構揺れたわね。気分悪くなっちゃった」
「船酔いか。横になれる所で休んだ方がよさそうだな。ソウマ、宿の場所は分かるか?」
ゼランがベロニカに肩を貸しながら、ソウマに視線を向ける。
「もちろん。ちゃんと下調べはしてあるからね。ついて来て」
ソウマの先導に従って、僕たちは近くにあった宿屋に入った。
2人泊まれる部屋を2つ取り、急いでベロニカをベッドに寝かせる。
「ベロニカの面倒はボクが見るから、2人も休んでていいよ」
ソウマが荷物を部屋に下ろしながら言った。
あ、そうか。
僕はエルガノフになってしまってるから、四天王で女性はベロニカだけ。
彼女の同室は性別不明のソウマにお願いするのが自然だよね。
ここは素直に彼の厚意に甘えることにしよう。
「すまないな。ありがたくそうさせてもらおう。後は任せたぞ」
僕とゼランは隣の部屋に行って荷物を置いた。
室内には2つのベッド。そして、机と椅子だけが置かれていた。
「はあ~、疲れたなー」
ゼランがベッドに身体を投げ出して声を上げた。
そんな彼の様子を見ながら、僕は今の状況に焦っていた。
一応僕も心は女なわけだし、なによりゼランは変化の魔術で顔の整った成人男性の姿になっている。
僕自身が今はゼランよりもデカい大男の姿だから、間違いが起きたりすることは絶対にないんだけど。
それでも、男の人と同じ部屋に2人きりはやっぱり緊張してしまう。
「ん? どうしたんだ? エルガノフ。そんなところに立ってないで休もうぜ」
部屋の奥にあるベッドで寝そべりながら疑問を口にするゼラン。
僕はというと、入り口付近で棒立ちになっていた。
ダメだ。変に意識して、不審がられる方が良くないよね。
「う、うむ。戦いに向けて、疲れを取っておくとしよう」
僕は脱いだ鎧を部屋の隅に置いて、手前のベッドに腰かけた。
ゼランには背を向けて、彼の顔は見ないようにする。
「……エルガノフ。休みながらでいいから聞いて欲しい。今のうちに話しておきたいことがあるんだ」
不意に、ゼランが妙に改まった口調で話しかけてきた。