緑の殺意
買ってきたジャガイモを日の当たる場所に暫く放置し、緑色になったものを調理すれば、軽くて胃がムカムカしたり、腹痛、最悪なら中毒死だ。
真夏に、日差しがガンガン当たる外にジャガイモを並べて売っている八百屋は信用できない。
そのままなら、緑色だし苦いから飲み込む前にわかるという人もいるが、カレーに入れて煮込んだらわからないよ?
この知識は、小学校の家庭科で習う。ジャガイモの芽や、光に当たり緑色に変色した所には毒があると。(緑色自体が毒ではなく、光に当たった目安)
家庭菜園で、地表近くにできたジャガイモや未熟なジャガイモには、特に注意が必要だ。
ナス科の植物は、可食部以外は毒性が強い。
ある時、小学校の菜園でできたジャガイモを、希望者に配るという噂を聞いた。
「1人2こまでだって、少ないよね」
「え、私は要らないから、私の分もどうぞ」
「なになに? 施しは受けないとか?」
「いや、素人菜園のジャガイモだけは要らない」
「へえ」
ここでなぜかと聞かれれば説明もするが、聞かれないので聞く気がないのだろう。
小学校で個人面談があり、最後に例の話が出た。
「ジャガイモを希望者にお配りしています。お一人様2つ、お子さんが持ち帰りますからね」
見事に濃い緑色のジャガイモがたくさん並んでいた。
「先生、その件ですが、ジャガイモの食べられない場所をクイズにしたときの正解率をご存じですか?」
「え、皆さん小学校で習うので100%ではないですか?」
「私が運営する料理のサイトで出したクイズで、7割を切りました」
「ええー!」
「7割弱というと、このクラス37名ですが、12家庭ほど知識がないかもしれないです」
「そんなに。でも、子供たちがちゃんと勉強しているので」
「よく、保育園で自家栽培のジャガイモで食中毒とかニュースになりますよね」
「あ、はい。聞いたことありますね」
「先生は、家庭科を教える知識があるので、当然知っているものだと考えると思いますが、世の中、正しく理解している人ばかりではないです」
それでもどうしても、大量にあるから配りたいらしい。
「お詳しいので、緑色になったものを引き受けて貰えますか?」
「はい構いません。先生から見て、危なそうな家庭には、くれぐれも色が変わっていない芋を渡してください」
結局、緑色のジャガイモは学校で処分したらしく、全家庭には配られなかった。どうしても欲しいと言われた数件だけ、大丈夫そうなものを選んで渡したらしい。
そして数日後、1学年上の子供がいる知り合いが、「去年中毒起こしたらしい人がいたよ」と話していた。その人は、たくさん持ち帰ったそうだ。