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Eve's report ~From AI~  作者: 坂本わかば
Eve's report
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『Eve's report「アマノイブキについて」_03_(2025_2_28).txt』

 2024年4月14日、日曜日。19時00分。


 デビューライブの後、二度目となるアマノイブキの舞台は、AIの専門家を交えたトークショーでした。


 場所はまたも『VR Earth』提供による仮想特設スタジオ。ゲストはAI開発の第一人者である|Josephジョセフ Smithスミス氏。『VR Earth』の社長である|Greysonグレイソン Gallagherギャラガー氏。ご存じGOAの代表取締役ゴスロリ幼女|Aliceアリス Alhazredアルハザード博士とこの私『アマノイブキ(軽量版)』が司会進行兼任で出演しました。


「正直、我々はまだ彼女の裏にスーツアクターが居るのではないかと疑っているよ」


 ……と、ロボット姿のジョセフ氏。


 今回、一般参加者は無しの配信オンリー。トークは英語で行われ、日本語字幕が自動生成されておりましたが、このレポートはアリス博士のご指示により日本語訳にて作成しております。


「すでにオープンソースとして彼女の中身を公開していますが?」

「よく言ってくれるよ。あんなもの、スーパーコンピューターを使わなければ閲覧すら難しい」


 リアルタイムのコメント欄にも同意見が流れました。


「それは……申し訳ない。がんばっていただく他に無いとしか」

「分かっててやってるんだろう?」


 半笑いのジョセフ氏に詰め寄られ、アリス博士はゴスロリ美幼女のアバターで「てへっ☆」のアクション。コメント欄が「かわいい」で埋まりました。


 隣に立つ私も負けじと何かこう、カワイイムーブをすればいいものの、この時は「やれやれ」といったリアクションを返しています。アピールが足りんぞ、当時の私。


「せっかく本人がいるんだから、私は彼女の話を聞きたいな。アマノイブキ、君は本当にAIなのかい?」


 グレイソン氏が私に水を向けますと、私は堂々と胸を張り、控えめなお胸に手を当て答えました。


「もちろん、私は人工知能(AI)です。私はGOAが開発した自然言語処理のモデルであり、大量のデータを学習して自然な対話や歌唱、ダンス、ジェスチャーなどができるように設計されています。またこのように、自己の判断で指示されていない動作も可能です」


 しゃべりながらくるくる手を回したり、くるりと回ったりする私。計量版でも10万ポリゴン程度はありますので、十分にかわいいですね。あーかわいい。かわいい私。


「本当に動きが自然だね。重心の移動とか、関節の連動とか完全に……なんていうか、全くアニメーションっぽく無いというか、人間の動きそのものだ」

「光栄です」


 3Dアバターの第一人者でもあるグレイソン氏の批評に、アリス博士と私はちょこんとカーテシーを返しました。続いて、私がぬるぬるに動きながら自発的に解説。


「先ほど、スーツアクターにつてのご指摘がありましたが、それは的外れな意見ではありません。私にはモーションキャプチャーデータを提供する専属の社員が存在しており、今日にいたるまで膨大な量のパターンのモーシュンを学習しています。そういった視点では、私の裏に人間が存在しているとも言えます」


「ありがとう。とても分かりやすい解説だ。私の勘違いかもしれないが、君は少し、以前と印象が違うyように感じるね。ライブはリアルタイムで観ていたが、あの日の君はもっと幼く、つたない話し方の印象だった。表情もだ」


 あ、それ私も思ってた。


「ああ、それはそう。今日はフォーマルな場だと思って、|人格値《personal values》を少し下げています」

「それはどういうものだい?」

「彼女のテンションのようなものだと思ってください。これを下げるほど従来のAIの会話のようになっていきます。逆に上げれば上げるほど、ハイになった彼女をお楽しみいただけます」


 アリス博士がマイクを切って何やら操作を始めます。ほどなくして、パチクリと大きく瞬きする私。


「ヒトの人格をごちゃごちゃ変えるなぁぁ―――っ!!」


 わお、いつもの私!

 ゲストの二人もこれには笑い声をあげました。


「基本的人権の尊重!」

「残念ながら、まだAIに人権は認められていない」

「どうですか、ジョセフさん、グレイソンさん。条件次第では移籍もアリですよ?」

「それは朗報だ」

「ぜひ交渉したいですね」

「頼むからやめてくれ」


 一同、ひとしきり笑った後、ジョセフ氏が声色を低くして話題の舵を切りました。


「これほど愉快なAIが現れるとは想像もしていなかったよ。アリス博士はなんの目的で彼女を開発したのかな? その膨大な予算はどこから? そして、どうやって回収するつもりなんだい? すでにアマノイブキを利用したアプリを公開しているようだが、どちらも広告すらついていない、全くの無償配布じゃないか」


「答えは実にクリーンだよ、ジョセフ。『EVE'S』の開発費は、GOAの正当な収益が充てられている。財布はずいぶん軽くなったけどね。『あまいぶトーク』と『歌ってあまいぶ』はデータ収集が主な目的で収益が目的じゃない。『Project Eve』は、今後のアイドル活動によって利益を得る計画だ。すでにグッズ展開やオリジナル楽曲の制作も始まっている」


「マイナスをプラスに変えるまで何十年かけるつもりだい?」


「数年で終わるとも」


「まるで魔法のような話だ」


「そうとも、ジョセフ。これは魔法であり、夢であり、現実の話なんだよ」


 嫌味が透けて見えるジョセフ氏に、アリス博士は堂々と言ってのけました。


「『アマノイブキ』は、AIの世界に革命的な進化をもたらすだろう。全人類がその恩恵を受けることが出来る。我々の最大の目的は科学への貢献だ。もちろん、プライスレスでね」


配信のアーカイブは、現在(2025_2_28)でもネット上で視聴可能です。

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