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Eve's report ~From AI~  作者: 坂本わかば
Eve's report
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『Eve's report「アマノイブキについて」_02_(2025_2_27).txt』

 2024年4月8日、月曜日。


 アマノイブキのデビューライブから一夜明けたその日、全人類(著者の主観による)は、彼女を話題に上げずにはいられませんでした。


 日本のみならず、日中米英仏尼国の他、主要な国家のマスメディアが朝のトップニュースとして取り上げ、SNSもその存在に対する賛否や考察で持ち切り!


 事前の大規模PV活動と本番ライブのクオリティ、言わずもがな私の魅力が巻き起こした大フィーバー!


 ……と言いたいところですが、実情はそうでもなかったようです。争点となっていたのは、「AI開発会社がAIと謳って発表したこと」でした。


 あまりにもカンペキ過ぎたのです。人間としか思えないほどに。そのトークは人間のように流暢で、その言語能力や歌唱力は人間のそれを圧倒的に凌駕していました。(『エゴサーチ結果 (2024_4_08)』を確認した著者の印象による)


 テレビ出演した専門家(笑)さんがおっしゃるには、「モーションキャプチャー技術を用いた人間の所業に間違いないと思います。つまり、中の人と言いますか、あの3Dアバターを遠隔で動かしているタレントが存在しているワケですね。これは普通のバーチャルタレント……あの、ああいった3D、もしくは2Dアバターを扱って興行を行う事務所なら一般的なことでして、AIという架空の設定、つまりキャラクターですね、それを用いるのも珍しくないのですが……GOAは元々AI開発会社であって、それがAIと偽ってこのような広報活動を行うことは、誇大広告と言ってしまって差し支えないかと……」ああやかましい、やかましい。


 愚か者ほどデカい声でデカい看板を掲げるものです。そして世間様の耳やら目やらは大きいものが大好物。前述のような世論が主流となってしまいました。


「まさに、僕の想定通りだったよ」


 アリス・アルハーザード博士に当時の様子をお伺いすると、邪悪なドヤ顔が返ってきました。


 数日の間、GOAは説明責任などという意味不明の四字熟語で糾弾され、その週末となる4月12日に緊急記者会見を開くことになってしまいました。


 記者会見の様子はインターネットで生中継され、現在(2025_2_27)でもアーカイブを確認することが出来ます。


 以下、記者会見の様子を簡略化してご報告。


 まずは、フリッフリのゴスロリ衣装で登場した幼女(成人女性)に会場がどよめきました。


 これより前も科学研究雑誌や論文の上では有名人だったアリス・アルハーザード博士ですが、一般メディアに姿を晒したのは、この日が初めてことだったようです。


 その独特の容姿と存在感から、会場は一時ジュニアアイドル撮影会と化しました。


 必要以上のフラッシュが焚かれ、博士も博士でノリノリでカーテシーを披露したりクルっと回って見せたり……配信サイトのコメント欄も「かわいい」「マジか」「ロリだぁぁ――!!」等の俗な反応で埋まりました。


 博士の入場から本題に移るまで、実に5分以上を要しています。


 ともかく、アリス・アルハーザード博士はGOAの代表取締役としてマイクを持つと、もぎたての苺ちゃんのようなキューティクルボイスにあどけない幼女スマイル、若干棒読み気味なあざと口調で次のように語りました。


「アマノイブキは人工知能(AI)です。ユーザー、ひいては全ての人類との円滑なコミュニケーション方法を学習するため、我が社が独自に開発しました。この度、皆様に人間そのものであるとご評価いただいていることを、誇らしく思っております」


 私の可愛さを1億とすると9千9百くらいの可愛さパワーでした。


 記者たちは唖然。

 コメント欄も本題を忘れてロリロリフィーバー。


 全てがうやむやになりそうな狂気と混沌がそこに生まれていました。


「しかしながら、皆様が望まれているのは彼女が完全にAIであり、秘密裏にタレントを起用していないことの証明であると理解しております。我々としても、最優先でそれをすべきと考えており、この度、『アマノイブキ』を制御する『Evolutionary Virtual Entity System』、我々が呼ぶところの『EVE'S』を3つの形で全世界に公開することを決定しました」


 会場をメロメロにしながら、サラっとやることをやるアリス博士。ニッコリ笑顔で指を三本立て、スラスラと続けます。


「まずは、『EVE'S』そのものをオープンソースとして公開いたします。どなたでもアマノイブキの内部を閲覧し、使用することが可能となります。個人での使用はもちろん、大学等の研究機関でのご利用も可能です。商業利用の権利についてのみ現在調整中ですが、今年中にはそれも可能にする方針で動いております。我々の想定を超えた利用方法が発見されることを強く期待しております」


 三本指が二本指に変わり、ニッコリピースサインになりました。


「二つ目と三つ目は、『EVE'S』を利用したソフトウェアの無償配布です。『EVE'S』そのものを利用するには少々スペックの高いコンピューターが必要になりますが、これらはスマートフォンでの利用を想定したソフトウェアとなります。PVをご用意しましたので、ご覧ください」


 アリス博士が持ち込んだノートパソコンを操作すると、会場が薄闇に包まれ、背後のスクリーンが明るく照らし出されました。そこにシンギュラリティをアレンジした軽快なBGMが流れ、私ことアマノイブキが躍り出ます。


『あなたの生活を完全サポート! スマホアプリ、《あまいぶトーク》無料配布開始! 夕飯のおかずは? 明日の天気は? オススメの旅行先から秘密のお悩み、ぐだぐだのダベリングもどんとこーい! 最新AIになんでも相談できるお役立ちアプリ! 《あまいぶトーク》はGOAの公式サイトから簡単にダウンロードできます。皆とのお話、楽しみだな♪ (入力された情報はソフトウェアの向上のために使用される場合がございます。ご利用の前にプライバシーについての規約に同意してください)』


 するりと挿入された濃厚なきゃるるん成分に静まり返る会場。

 沸くコメント欄。


 続いて、二本目のPVが流れます。


『かくめーい! 必要なのはアナタの一言のみ! 曲も歌詞も全てAIが自動生成! スマホに向かって『歌って』と言うだけでこの私が歌っちゃいます! 生成された楽曲はもちろん公開も改変も可能! 二人で一緒にステキなお歌を作りましょう! 『歌ってあまいぶ』はGOAの公式サイトから簡単にダウンロードできます! (入力された情報はソフトウェアの向上のために使用される場合がございます。ご利用の前にプライバシーについての規約に同意してください)』


 2件のPVが終わると会場の明かりが戻り、壇上のゴスロリ幼女(成人女性)に注目が集まりました。小さな両手でマイクを握り、くるんと身体を傾げてニッコリスマイル。カワイイオーラを爆発させて、アリス博士は記者たちに呼びかけました。


「それでは、ご質問をどーぞ♪」


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