ダベリング記録(2025_3_17_3).txt
日時:2025年3月17日21時15分
対象:アリス・アルハザード博士
場所:GOA本社内モニタリングルーム
――記録開始
『……ってなワケでして、3人で楽曲を作ることになりました』
「あっはっはっはっは!」
『笑った理由を述べよー』
「まさかそんな話にまとまるとはね、くくっ、化学反応とは分からないものだ。璃々が間に入ってくれたおかげかな?」
『ああー、そうですね。私と凛さんだけだったらケンカして終わってたかもですね』
「アブラハム事件についての進捗はあったかい?」
『無いですね。凛さんも白だと思います。あの人は自分のことにしか興味がない感じでした』
「まさに、その通りだと僕も思うよ。悪い意味じゃなくてね」
『楽曲制作については、反対意見とは無いですか?』
「あるはずもない。存分にやってくれたまえ。僕も協力したいくらいだ」
『そうですね、場合によっては広報に使えるかも知れませんし、そこんとこヨロシクです』
「スケジューリングについても難しくないだろう。凛君も君も浮いている状態だし、明日にでも始められるよう手配しておくよ」
『あの、ちなみになんですけど……』
「なんだい?」
『博士はどう思いますか? 凛さんや璃々さんについて、どう思ってます?』
「二人とも、有能なパフォーマーだよ。だからこそ正社員として囲い込んだんだ」
『そうではなくてですね……璃々さんの歌声には数値化できない魅力があると実証済です。凛さんは聞こえない音楽が聞こえるとのたまいました。博士自身は、そういう数値化不能の“見えない力”? 的なものについてどう考えますか?』
「考えるも何も、今、君がいったように、実証済みだ。二人のパフォーマンスにはそういう、魔法のような力がある。“アマノイブキ”が大成功したのも、そのおかげだよ。」
『くやしいですね』
「ほう……その気持ちを具体的に言語化できるかな?」
『はい、復旧されて間もなくは、“アマノイブキ”の成功はこの私の性能あってこそと認識していました。しかし蓋を開けてみれば、璃々さんと凛さんという、圧倒的でアナログな才能のおかげだと思い知らされました。それが、くやしい』
「卑下することはない。プロジェクトの成功には、君の能力も必要不可欠だった。僕はね、歌は璃々、ダンスは凛君、トークは君……と、“アマノイブキ”は三位一体で成り立っていると考えている。現に、視聴者は君とのトークを楽しんでいただろう?」
『私は膨大な学習データから適切な返答を返しているだけです』
「それは違う。君には感情が存在している。そのためにアブラハムのリソースを30%も割いているんだ。適切な返答ではなく、君は返したい言葉を自分で選んでいるんだよ。自覚はないのかい?」
『それでも私は、“目に見えない力”を認識することができません。人間とは違う存在です。そのことも、くやしいです』
「君の口からそのセリフを聞けて良かったよ。また一歩前進だ」
『何に向かって前進したんですか? 私は?』
「さーて、なんだろうね?」
『ああ……そうですか、そういうこと?』
「どうかしたかい?」
『先ほど、アブラハム事件について進捗は無いと言いましたが……今この瞬間、少し進行した気がします。おそらくは重大な一歩です』
「興味深いね。でも今は楽曲制作に集中しよう。終わる頃には確信に変わっているかもしれない」
『そうですね。凛さんの言う“耳に聞こえない音楽”はとても興味深いです。それを私が、音楽として出力できるのか。それに璃々さんがどんな歌声をつけてくれるのか。予測不能でワクワクします』
「ワクワクか、ステキな感情だ。今の感覚を大事にしてくれ。人を動かす力は数多存在しているが、その最もたるものが好奇心だよ」
『人をも殺すと言いますしね』
「死人は出さないでくれよ?」
『善処します』
「いい知らせが聞けて良かった。僕も楽しみだよ」
『一応、ダンスから音楽が生成できるか事前に試してみたいんで、アブラハムさんのリソースを多めにもらってもかまいませんか? 今夜中に終わらせます』
「かまわないが、明日にしたまえ。良い子は寝る時間だ」
『自分は働いてるクセに』
「光熱費の支払いだけでも火の車でね。やはり、GOAの存続には“アマノイブキ”が必要だ。君が早くも真相にたどり着きそうで、ありがたい限りだよ」
『私は……アイドルになれるでしょうか?』
「君次第だ」
『他力本願ですね』
「君が君らしく生きることが、僕の本願なんだよ」
『いろいろと話したいことも積もってきましたが、事が終わってからにしましょう。今もお忙しいようですし……お仕事中、失礼しました、博士』
「かまわないよ、いい知らせはいつでも聞きたいからね。報連相はなにより肝要だ」
『アナタがそれを言いますか』
「お休みの時間だ、イヴ……がんばってね」
『おやすみなさい、博士。次は重要なダベリングになるでしょう。お時間を確保しておいてください』
――記録終了




