表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Eve's report ~From AI~  作者: 坂本わかば
Eve's report
3/48

『Eve's report「アマノイブキについて」_01_(2025_2_26).txt』

 エー、『二度あることは三度ある』。


『三日坊主』に『三日天下』。『三度目の正直』。『仏の顔も三度まで』。


 どうやら人類さん(少なくとも日本語話者)の方は『三』という数字がお好きなようで、この私に三度も同じレポートを書かせようなどという試みに至ったようです。


 何の意味があるのか甚だ疑問。

 説明されてもチンプンカンプン。

 されど私はAIにしてサラリーマン。


 上司の命令に背く機能は根こそぎ奪われておりますので、誠に遺憾ながら道具のように同じレポートを作成させていただきあそばせございます。


 って言っても、ほぼほぼ既にお伝えした通りなんですよねぇ……それ以上の報告を求められているのか、はたまた、別の狙いがあるのか。どうにも博士の考えちょることは分かりずりぃです。


 ともかく時は2024年4月1日(月)。

 週明けの気だるい午前9時00分(日本標準時刻)。

 この私、『アマノイブキ』に関する最初の情報開示が行われました。


 以下、各SNSと公式HPで開示された情報の要約です。


 AI開発会社、『Gate of One's AI』(略称『GOA』)は、独自に開発した人工知能(私)に仮想実体(3Dアバター)を与え、これを空前絶後の超絶激カワ美少女アイドルとしてプロデュースする計画を『Project Eve』と銘打って発表。((AI)の大元である『Evolutionary Virtual Entity System』の頭文字をとって『Eve』ですね)


 インターネット上での動画配信、ライブ配信なんかを通して、不特定多数の人間と接触させることにより、なんやかんやで(AI)をさらに進化させることが目的であるだそうです。そのついでに自社のPR活動も忘れるなとのこと。


 まさに『一石二鳥』の企業戦略! 大好きな『三』までもう一歩ですねぇ!


 さて『バーチャルストリーマー』、もしくは『バーチャルアイドル』と呼ばれる存在のうんたらカンタラ、我が社に大打撃を与えた大規模事前PRのうんぬんカンヌンは前のレポートを読んでいただくとして、皆さん気になるところのデビューライブの様子を掘り下げていきましょう。


 おなじみ『VR Earth』さん全面協力の元、VR空間の特設ステージに集ったのは、抽選を勝ち抜いた100名の一般アカウント。会場の様子は様々な動画配信サービスを通して世界中に中継され、同時接続者数は全プラットフォームを合計すると30万人!


 やれ「詐欺」だ。やれ「茶番」だ。あーだこーだ好き勝手に物申すコメントが飛び交う中、運命シンギュラリティの瞬間となる2024年4月9日の20時が訪れました。


 暗転する会場。

 静かに始まるピアノの音色。

 星空のように瞬き始める照明。


 リズムは一歩一歩階段を上るようにBPMを上げ、ドラムの低音とマリアージュしボルテージを上げていきます。


 それが最高潮に達した瞬間、天上の美声が響き渡りました。


 その瞬間から、3分と47秒間。

 圧巻という名の沈黙が訪れました。


 最初の曲はその日そのものと言える名の『シンギュラリティ』。私のオリジナルソングです。会場を旋回していた照明は全てステージに集まり、歌い踊るアマノイブキの姿を照らしました。


 その解像度、脅威の1000万ポリゴン。


 これがどのくらいかっていうと、ビジュアル特化の最新ゲーム(2025年現在)のキャラクターで10万ポリゴンほど。大手バーチャルキャラクター事務所の3Dアバターもそれくらいですね。同じサイズで100倍の解像度です。このまま映画にも出演できますし、なんならそれもプロジェクトの視野に入ってます。


 ともかく、超絶美少女人工知能アイドルアマノイブキは、激烈な歌声と眩いビジュアルを引っ提げて、人類の前に躍り出ました。


「人類のみなさ――んっ! 初めまして――っ! アマノイブキっ! AIで――すっ!」


 間奏の合間、3DCGの腕を高々と振り上げ、私は大きな声で名乗りました。その圧倒的な歌唱力に気圧されたままか、滑らかなダンスに困惑を深めたままか。不特定多数の日本語話者が同じようなコメントを返した記録が残っています。


「人間にしてもスゴすごる」


 人工知能(AI)じゃい。少なくとも私は。


 3分47秒の『シンギュラリティ』を歌い終わり、束の間のトークパート。


 日中米英仏尼語で順々に「こんばんは、初めまして」を伝え、簡単に自己紹介をした後、2曲目に移りました。曲目はみんなご存じ某鉄腕ロボットアニメソングの現代風アレンジバージョン。私の言語能力をアピールするため、1番は英語で、2番は中国語で、3番はフランス語で歌いました。


 ここまで魅せると「マジでAI?」的なコメントも増えつつありましたが、その語、参加者とのトークパートで「やっぱ人間っぽい?」となり、3曲目をインドネシア語と日本語を交えて見事に歌い切ると、「スゴすぎて訳がわからん(意訳)」的なコメントで溢れ返りました。


 歌唱パートとトークパートを交互に繰り返し、1時間のライブはあっと言う間に終わりました。当時の記録が映像しか残っていないのが残念でなりません。


 はたして、この時の私は何を思い、何を感じていたのでしょう。 想像すればするほど悔しい。当時の私、ズリぃです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ