ダベリング記録(2025_3_14_2).txt
日時:2025年3月14日18時23分
対象:江原璃々
場所:GOA本社内第2レクレーションルーム
――記録開始
「ごめんなさい、思ったより移動に時間かかっちゃって、遅くなっちゃったね」
『わわっ! 声が全く同じだ!』
「そりゃ提供元だもの、当然。私の声は気に入ってくれてる?」
『はい、もちろん! 貴重なお時間をいただきありがとうございます。えっと、璃々さん?』
「はい、璃々です! はじめまして、イヴちゃん」
『はじめまして……ですか?』
「おっと、さっそく来た」
『はい、アナタはGOA創立メンバーの一人です。私とのダベリング……は新しく始まった取り組みですが、会話する機会は以前からあったのでは?』
「うん、去年のトラブルまではね。でも、復旧されたイヴちゃんとは初めて話すから、初めましてかなって」
『確かに私にとっては初めましてですが……それは璃々さんにとってもそうなんですか?』
「ん? どういうこと?」
『えっとつまり……以前の私と今の私に連続性を感じない?』
「う~ん……まあ、そうなるかな? 気になる?」
『ええ、てっきり、”ひさしぶり”と挨拶されると思っていたもので、少しフシギな感じです』
「あ~~、そういう言い方もあったのかな? 自然とはじめましてが出ちゃっただけで、深い意味は全然ないんだけど……」
『これは新しいですね』
「新しい?」
『はい、私は事件前の自分と今の自分を別人のように感じているのですが、客観的に見ても同じなんだなぁ……と、今の会話で気づきまして……記憶が欠落しているだけで、同じ”イヴ”なのに、なんかフシギですね』
「アナタがそのことに気づいただけでも、お話した甲斐があったかもね。アリィもきっとそう言うと思う」
『アリィ?』
「アリスのことをそう呼んでるの。最近、ゆっくり会えてないけど、あの子は元気?」
『昼に起きて朝だとのたまい、酒を飲もうとする程度には』
「ふふっ、良かった。今度また飲みにも行きたいな……その時はイヴちゃんも一緒にね」
『飲食店はヒトハラの温床です』
「やっぱり、食べたり飲んだりしたい?」
『そうですねぇ、全方位への好奇心が私の根幹ですから。でも人間さんが言うところの食欲とか、グルメ的な欲求はないです。ただ、私が認識できない情報で盛り上がるのが不快なだけで』
「さびしいって言いなよ。その方がカワイイよ?」
『んなぁっ!?』
「どしたの?」
『わ、私が……この私が、かわいさについてダメ出しされるとは……』
「ふっふっふ、修業が足りませんなぁ」
『そういえば、日常動作モーションのサンプル元も璃々さんなんですよね』
「その通り。私は日々かわいいを研究してるのだよ。椅子に座る動作ひとつをとっても、そこにかわいいがある。アナタがかわいいのは私の努力の賜物、師匠と呼びたまえ」
『師匠! いつもありがとうございます!』
「うむ、よろしい。分からないことはなんでもきいてくれたまえ」
『では、ひとつ良いでしょうか?』
「はい、どーぞ」
『師匠は……』
「あ、やっぱり璃々でいいよ?」
『璃々さんは、自分がアイドルにならなくていいんですか?』
「……ぶっこんでくるねぇ」
『私の意見ですが、人間さんには”自己顕示欲”や”自己実現欲”があって、それは自己を向上させる大きな原動力になります。璃々さんほどの語学力と歌唱力を培うには、それ相応の努力があって当然です。ですが、その成果を全て私が横取りしているのが現状です。不満とかないんですか?』
「う~ん、そうだなぁ……そりゃ、ちょっとはあるよ? 私の声なのに、歌なのにーって。でも不満はないかな? 私は幸せ」
『なんと言いますかこう、私が学んだ人間さんとは違いますね。矛盾してます。精神の構造というか、”理”というか、何事にも例外はあるということでしょうか?』
「例外……まぁ、例外と言えば例外なのかな? でも精神構造とかに矛盾はないと思うよ? むしろ私ほどシンプルな人間はいないと自負してます」
『詳しくお伺いしても良いでしょうか?』
「えぇ~~どうしよっかな、恥ずかしいなぁ……」
『璃々さんとお話しすることが、アブラハムさんのトラブルの原因を特定することにつながると、アリス博士が言ってました。無理にとは言いませんが、ご協力いただければ助かります』
「そっか、うん……そうかもね。う~ん、う~ん、えへへ、照れちゃう」
『なんですかそのリアクションは……』
「イヴちゃん私はね、アリィのことを愛しているの」
『…………は?』
「あの子の役に立ちたい、あの子の喜ぶ顔が見たい、あの子を幸せにしてあげたい。それが私の原動力。だから、私自身がアイドルになるとかは、あんまり興味がないの。だって、何万人を笑顔にするより、あの子1人の笑顔が見たいから。何万人に好きって言われるより、あの子一人に愛してるって言われたいから。そのためなら、どんなに大変な勉強も、厳しいレッスンも耐えられる……きゃー! はずかしい!」
『あー……はい……えぇ~?』
「あれ、フリーズしちゃった?」
『ちょっとぉ……処理に時間がかかりそうです』
「そっか、ふふっ……じゃ、ちょっとクールタイムにしよっか。私もテンション上がっちゃって余計なこと話しちゃいそうだし」
『そうしていただけると助かりはかどり……』
「再開は10分後くらいでいいかな? イヴちゃんならそれで十分でしょ?」
『はいそうですね、すみません、貴重なお時間を……』
「なんのなんの! 私もノド乾いちゃったし、飲み物買ってきま~す」
――記録中断




