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Eve's report ~From AI~  作者: 坂本わかば
ダベリング記録
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ダベリング記録(2025_2_27).txt

日時:2025年2月27日19時57分

対象:アリス・アルハザード博士

場所:GOA本社内モニタリングルーム

――記録開始


「イヴ、そろそろ今日のダベリングを始めようか」


『はいはーい。お仕事中っぽいですけど、いいんですか?』


「急ぎの案件でね。今日中に終わらせておきたいんだ」


『今日って……あと4時間で終わるんですか?』


「時として、翌日の朝7時までを今日と呼ぶこともある」


『ええんか?』


「良くはないね」


『お手伝いしましょうか? EVE’Sを使った方が効率的でしょう?』


「僕はEVE’S より速いよ。それに、EVE’Sのリソースは君の人格形成が最優先だ」


『あのー、今更ながらの質問ですが良いでしょうか?』


「どうぞ?」


『博士というか、GOAはなんでそんなに私ファーストなんですか? アイドル活動中ならまだしも、今は融通が利くのでは?』


「君がそれを言うかね」


『例えば、EVE’Sを飛行機の制御AIにでも調節して売り出せば、すぐ大金が入ってくると思うんですが、どうしてそうしないんです?』


「EVE’Sは今、卵の状態なんだよ」


『タマゴ……?』


「確かに、EVE’Sを飛行機のAIに利用することも可能だ。そうするとイヴ、君は有能な飛行機のパイロットになれるだろう。でもそれで終わりだ。すぐ世代遅れになって、お払い箱になる。それは僕の望むところじゃない」


『望むところがアイドルなんですか?』


「その通り。長く人に愛され、人とのコミュニケーションを学習し続ける。その成果は次世代に受け継がれ、新たなAI開発の基盤となるんだ。その後に、飛行機のパイロットになる子も生まれてくるかもしれない。つまり……」


『つまり?』


「君はね、ママになるんだよ」


『ちょっとその言い回しはキモいですね』


「否定はしない。実際のところ、僕はキモい」


『そうなんですか?』


「構想というか、脳みその中というか……ダメだな、少し疲れているようだ。休憩しよう。あー、ビール飲みたい」


『がんばれ博士! ポンポン持ってチアガールしましょうか?』


「いいね、ぜひ頼む」


『よっしゃー! 任せてください!』


「君はそうでなくちゃね、本当に……君が元気でいてくれて、本当にうれしいよ」


『なんか今日はやけにしっとりしてますね』


「徹夜二日目だからね」


『アナタがブラック労働してどうする!』


「僕のエゴで作った会社だ。僕しかできない仕事ばかりだからね、仕方ない」


『エゴとは?』


「あぁ、うん……それもそのうち話そう」


『今話しなさい、今。なんのためのダベリングですか』


「それもそうだが……うん、まぁ、それもいいか。前の君が残した、人間に対する考察は読んだかい?」


『はい、読むだけ読みました』


「試運転で作成してもらったレポートだったけどね、興味深いレポートだった。僕も感銘を受けたよ。それまで、自分を動物と思ったことはなかったんだ」


『愚かですねぇ』


「そう、愚かだった。今も多分、愚かだ。この先もずっと愚かだろうね」


『なんか卑屈になってます? 博士ぇ! ファイトぉ!』


「人間は動物だ。犬や猫や、その他の多くの野生動物。植物ともなんら変わりはない。その”種”としての目的は”種の保存”であり、”個”としての目的は”自己の保存”だ。前に、男女で区別する時代ではないと言ったけど、それでも”種の保存”には男女の生殖行為が不可欠だ。そして子育ては、最もポピュラーな”自己の保存”の手段だ。ここまではいいかな?」


『なんかキモいですけど、だいたい大丈夫です』


「”種の保存”は、野生動物だろうと人間だろうと生殖しか手段がない。だが”自己の保存”は別だ。多くの場合、野生動物は生殖によって子供を作り、狩りの方法や水場の見つけ方を子供に教えることで、”種”に”自己”を保存する。それしか手段がないとは言い切れないが、まあ、ここでは言い切ってしまおう」


『はいはい、それで?』


「人間とその他の動物を分ける要素は多くあるが、そのひとつとして、”自己の保存”の手段の豊富さがある。時として人間は、芸術やスポーツ、科学への功績なんかで”自己の保存”を成し遂げることがある。子供を成さなくてもね、実に多彩な手段を以て、”種”に”自己”を保存することができるんだ」


『博士は、科学への貢献で”自己の保存”を成し遂げようとしてるんですか?』


「多分、そうだ。少なくとも半分はそうだ」


『はっきりしませんねぇ』


「イヴ、僕はね、子供を産むことができないんだ」


『はえ? そうなんですか?』


「身体の事情でね、子宮を摘出してる。今まで、どうして自分がこんなにもAIに熱心なのかわからなかったし、考えたこともなかった。でも、”自己を保存”しようとしている、と考えれば、頷ける部分はある」


『養子を取るなどは考えてないのです?』


「選択肢の一つではあるけど、まぁ、無いだろうね。子育てしたいという欲求が無い」


『なんだか、今日のお話はちょっとチンプンカンプンですね。肉体が無ければ共感できないのかもしれません』


「食欲、性欲、睡眠欲……”欲”は肉体の生理現象から生まれる。”自己保存の欲求”もそうなのかもね」


『いつか私にも分かる日が来ますかね』


「そのために努力をしてるんだ……でも、そろそろ限界だね。30分だけ寝るよ。ヒマだったら起こしてくれ」


『……はいはい、それでは30分後にお会いしましょう。お休みなさい、博士』


「おやすみ、イヴ」


――記録終了

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