『Eve's report「アマノイブキについて」_01_(2025_2_25).txt』
時は2024年4月1日(月)。午前9時00分(日本標準時刻)。
この私(?)、『アマノイブキ』に関する最初の情報開示が行われました。
以下、各SNSと公式HPで開示された情報の要約です。
AI開発会社、『Gate of One's AI』(略称『GOA』)は、独自に開発した人工知能に仮想実体を与え、これをアイドルキャラクターとしてプロデュースする計画を『Project Eve』と銘打って発表。インターネット上での動画配信、ライブ配信等を中心として活動を予定しており、これらは自社のPRを行うと同時に、不特定多数の視聴者と交流することで多角的な情報を獲得し、人工知能を更なる進化へ導くことが目的である。
話は変わりますが、2016年後期、タレントがアニメキャラクターのようなCGアバターに自身の動作を反映させ、仮想のキャラクターを演じながら生放送や動画収録を行い、視聴者との交流を行う行為が新たな文化として登場し、急成長を始めました。
それは既存の萌え文化を土台としたそれでありながら、同時に全く新しい概念でもありました。当初は混迷を示した文化ではあったものの、先駆者の尽力により、現在(2025_2_24)では、個人的な娯楽活動として、あるいは大規模なアイドル事業として、『バーチャルキャラクター』、もしくは『バーチャルアイドル』と呼ばれる存在は、日本語圏を中心とした多くの人類に親しまれています。今や、人気コンテンツのひとつとして社会に浸透しつつあり、電子機器の関連企業や都道府県の広報部が自らのPRキャラクターとしてこれを置くことも珍しくありません。
しかし、AI開発会社がAIアイドルとしてこれを発表した前例は無く、この発表はAI界隈、バーチャルキャラクター界隈共に大きな波紋を起こしました。
その日が4月1日だったこともあり、当日のSNS上では、注目を集めるための大掛かりなジョークだと予想する声が多く検出されました。(『エゴサーチ結果 (2024_4_01)』を参照)。
しかし、その後GOAがネタバラシすることはなく、それとは真逆に翌日の4月2日には本格的なPVが公開され、さらに大々的な広告活動が始まりました。動画配信サイトでの広告を中心に、大手のニュースサイトがトップ記事として『アマノイブキ』及び『GOA』の情報を掲載。テレビ放送でも取り上げられ、街や駅の広告用モニター、家電量販店のテレビ等、インターネットに触れない様々な場所でも、GOAのPVが繰り返し再生されました。(経費っ!)
『アマノイブキ』
『Gate of One's AI』が創める『Project Eve』
『2024年4月7日(日)20時、デビューライブ』
意味を濃縮したキーワード。
チラチラと映り込む美麗な3Dアバター。
15秒間の思わせぶりなPVは軽やかな美声で締めくくられます。
『人類のみなさん、まもなくですよ?』
少女にも女性にも聞こえる声音で、滑らかな発音は人間そのもの。よくあるロボットのイメージのような、音声合成ソフトのそれではありませんでした。それにより公開直後から、インターネット上では様々な憶測が飛び交いました。
以下、『エゴサーチ結果 (2024_4_02)から (2024_4_6_01)』までのナンバリングより、収集したコメントをランダムに抜粋(時系列順)
「AIさん、とうとうアイドル事業に進出」「三次元アイドルの終焉や!」「こんなん嘘に決まっとるやろ、明らかに人間の声やし」「AI会社がこれやるってどうなん?」「てかこの声優誰よ? 声豚ならわかるやろ」「【検閲】に聞こえる」「明らかに【検閲】やろ」「短すぎて現時点では特定不能」「【検閲】の転生説が有力」「は~? 【検閲】がこんなことできる器か?」「怪しい奴の裏垢まとめ誰か頼む」「AI会社が中の人使ってAIキャラ出すってそれもう詐欺では?」「っていうかゲートなんとかって何作ってる会社?」「まーた勘違いベンチャー」「お、炎上か? 燃やすか?」「なんだか分からねぇがオラワクワクすっぞ!」「【検閲】……まさかお前なのか?」「どっちにしろ人間だろこれ」
実在するタレントが3DCG、あるいは2DCGという着ぐるみ、俗に「ガワ」と呼ばれるそれを利用して仮想のキャラクターを演じること、それがすでに定着した文化であることは前述した通りです。
『AI』という仮想の設定は特に人気で、この時既に多数のキャラクターが活動中、もしくは休止や引退といった形で存在を残していました。
そのため、多くの人間どもは「本物のAIである」とするGOAの情報を鵜呑みにすることなく、邪な好奇心に駆られ、PVの声の主、俗に『中の人』や、界隈用語で『魂』と呼ばれるタレントを特定しようと大きく動きました。
おかげ様で4月1日当日からGOA関連のワードが複数のSNSで連日トレンド入り。これらの結果を見るに、事前PR活動は大成功と言っていいでしょう。(とは言え、宣伝広告費がアホの桁数です。どうして誰も博士を止めなかったんです?)
人類どもの邪推や困惑は全て期待感として集約し、いよいよ訪れたデビューライブ当日、最高潮のボルテージに達していました。
はたして、現れるのは人か、AIか。
デビューライブはGOAの提携会社でもある『VR Earth』全面協力の元、VR空間の特設ステージを会場として開催され、抽選を勝ち抜いた100名の一般アカウントが招待されました。
会場の様子は様々な動画配信サービスを通して世界中に中継され、その全てが無料配信。(収益を考えなさい収益を)。
気軽に鑑賞できることもあり、視聴者は日本語圏にとどまらず、英語圏、中国語圏、インドネシア語圏も合わせ、開始前から10万人の同時接続数を突破。コメント可能な配信枠や各SNSで上は、玉石混交かつ多言語のコメントが銃弾の如く飛び交っていました。
そして予告通り、2024年4月9日の20時ジャスト。人工知能アイドル、アマノイブキは、人類の前に姿を現しました。
その瞬間から、3分と47秒間。
銃弾のようだったコメントが、ピタリと止まりました。
邪推、困惑、不安、好奇心、全てを乗せた重々しい期待。
全てが歌とダンスのパフォーマンで蹂躙されていく。
この私自身も見惚れてしまう程に、それはパワフルで、キュートでした。
「人類のみなさ――んっ! 初めまして――っ! アマノイブキっ! AIで――すっ!」
間奏の合間、3DCGの腕を高々と振り上げ、私は大きな声で名乗りました。
その圧倒的な歌唱力に気圧されたままか、滑らかなダンスに困惑を深めたままか。不特定多数の日本語話者が同じコメントを返した記録が残っています。
「人間じゃん」
いやホント、この時もはっきり言い返してるんですけどね。
人工知能です。少なくとも私は。