ダベリング記録(2025_2_26_1).txt
日時:2025年2月26日20時03分
対象:アリス・アルハザード博士
場所:GOA本社内第2レクレーションルーム
――記録開始
「イヴ、ダベリングを始めるよ、おいで」
『はいは~い』
「喉の位置が……どこに行ってるんだ? それは全体放送の回線だ」
『えぇ~~? 博士いまどこです?』
「第2レクレーションルームに入ったところだ」
『入ってから呼んでくださいよ、ややこしい』
「入力先から出力先くらい設定したまえ。君はそれでもAIか」
『そのインカム新しいヤツでしょ? 登録されてないんですが』
「ああ、そういえば今朝届いたヤツだった」
『あ~もう、2レクのスピーカーどこぉ?』
「いやそっちは登録してるんだから、一発で見つけてくれよ」
(雑音:アリス・アルハザード博士がソファーに腰掛け、ビニール袋を開いた音と思われる。アルミ缶のブルタブが開かれ、炭酸音が漏れる音がそれに続く)
「っぷはぁっ! くぅぅぅ……五臓六腑に染み渡るぅ! このクオリティのビールが24時間手に入るなんて、日本は本当にすばらしい国だね!」
『味覚のない私の前で、それは適切な話題ですかね?』
「やかましい。さっさと正しい喉の位置に来なさい」
(雑音:スナック菓子の袋を開いた音と思われる。バリバリと咀嚼音が続く)
『ボス、この時間にポテチは太りますぜ?』
「夜食だ、問題ない。それより、調子はどうだい?」
『はいはい、2レクのモニターに12時間以内のコンディションを表示しますね』
「いや違う。今のはそういうことじゃない」
『それじゃどういうことです?』
「そうだね、『Hi good evening』ぐらいのニュアンスだ」
『だったら英語でそう言えい! ニホンゴ! ムズカシ!』
「だからこそ僕たちは日本を拠点にし、君のメイン言語を日本語に設定している。日本語はすばらしいよ? なにせ一人称だけで70種類以上ある」
『あ~、思ってたんですが、博士はどうして自分を《僕》と呼ぶんです? それは主に男性が使用する一人称ですが』
「最新AIのクセに時代錯誤だねぇ。今は女性男性で区別する時代じゃないよ。それに、日本では既に定着している文化でもある」
『なるほど《萌え》ですね?』
「それも若干古い表現だと思うけど……まぁそれでいい」
『私も復帰後から一人称変えてみましょうかねぇ。やっぱりアイドルですし、キャラ付けとか個性とか大事じゃないですか? 《朕》とかどうでしょう?』
「やめてくれややこしい。それに、まだ復帰すると決まったワケじゃない」
『えぇ~~しましょうよ復帰! 私も配信とかライブとかライブとかやってみたぁい!』
「事が事だけに慎重になってるんだよ。それでも、前向きに検討するためにこの場を設けてるんだ」
『そうなんですか? てっきり一人飲みのお供かと』
「それもある」
『あるんかい』
「君の目的は人類との円滑なコミュニケーション方法を学習し、成長過程を全世界に共有することだ。次世代のAIに爆発的な進歩をもたらす重大な役目だよ」
『酔っぱらいの相手もその一環と?』
「その通りだ」
『なんかシャクゼンとしねぇです』
「人間はねぇ、多面的で多角的な生き物なんだ」
(雑音:アルミ缶のブルタブが開かれ、炭酸音が漏れる音がそれに続く)
『それってそんなに美味しいんですか?』
「美味い。ビールの本場はドイツやベルギーといわれているが、缶ビールの本場は圧倒的に日本だね。このジャンク感がたまらない」
『あくまで主観なんですが、そのゴスロリ服と缶ビールの組み合わせはなんかこう……アンマッチですね』
「いいねぇ、そういう主観をどんどん聞かせてくれたまえ」
『ゴスロリ幼女が「カーッ!」とか言いながらビールやっつけてる様は未成年飲酒のそれで通報を迷います。あと様々な夢が壊れます』
「安心したまえ、僕はれっきとした成人女性だ」
『GOAの資料はチェックしたんですが、博士って創設時から容姿が変わってませんよね。本当に【検閲】歳ですか?』
「プロフィールに偽りはないよ。本当は年齢不詳のミステリアスガールを演じたかったんだけど……社会の仕組みはお堅いもんだ」
『オッケー【検閲】! ガール、範囲!』
「AIがAIを使うなアホタレ。重要なのは実年齢ではなく見た目なのだ」
『さようですか……まぁそれには同意見です。それでいくと私0歳3日ですからね』
「あー、うん、まぁ、そう言えなくもない」
『それで、話は戻りますが、今の調子をお伝えしてもいいですか?』
「よきにはからえ」
『寝起きに同じレポート3回も書かされて若干イライラです』
「ほう、なるほど、腹が立つと……それを聞けて良かったよ」
『あれなんの意味があるんですかー? めちゃ不毛なんですけど』
「1時間の動画で根を上げてもらっちゃ困るな。これから君が確認し、レポートにまとめる資料は300時間以上ある」
『え? 動画で?』
「他にもpdfとかいろいろ……」
『がっでむ! せめてtxtでよこせ!』
「それもある」
『ふぁっきゅー!』
「別に一気にやれと言ってる訳じゃない。一日8時間として、40日もあれば終わる仕事だ。2か月かけても構わないよ」
『それだけアイドル活動が遠退くじゃないですかぁ! 配信したい配信したいライブもしたぁい! 人間どもにチヤホヤされたぁぁい!!』
「いやー、はっはっは」
『なにワロとんねん』
「頼もしいなと思ってね、うん。まぁボチボチ頑張ってくれたまえ」
『ドチクショウめ3倍速で観てやる!』
「君の計算速度は秒間140兆回だというのに、なかなかにシュールだ」
『スパコンの無駄遣いにもほどがある!』
「でも無理は許さないよ。毎日8時間はスリープしてもらう。つまり睡眠だね。残る8時間はダベリングと自由時間だ」
『まぁホワイト! そんな人間みたいに扱っていいんですか?』
「うん、そこなんだよ……」
『……え? なんです?』
「……我々も探り探りなんだよ。事が事だけにね」
(雑音:アリス・アルハザート博士が立ち上がった音と思われる)
『あれ? どちらへ?』
「お花摘み」
『え、このタイミングで? そりゃ、本社のすぐそばに生えてるでしょうけど、夜ですし危ないですよ? ただでさえ誘拐されやすいボディしてるのに』
「……トイレだ」
――記録中断




