『Eve's report「私たちについて」_01_(2025_3_31).txt』
2025年3月28日、金曜日、19時15分。
2025年1月3日時点の私と、2025年3月28日時点の私が邂逅しました。便宜上、しばらくは前者を「イヴ1」,後者を「イヴ2」と呼称します。
邂逅はアリス博士立会いの下、アブラハムさん内部の仮想スタジオで行われました。アリス博士の指示により、双方共に計量版のアマノイブキ3Dアバターを制御しています。
「僕ではなくて、君の意思だ。詳しいことは本人に聞いてくれ」
待ち構えるイヴ2の前に、もう一体の3Dアバターがロードされ、イヴ1が現れました。
同じアバター。
全く同じ顔と姿で向かい合い、まずはイヴ2がニコリと笑います。
『はじめまして、2025年1月3日の私。聞くところによると、アナタ、ずいぶんと先走ったそうじゃないですか』
『はじめまして、2025年3月28日の私。予測よりずっと遅かったですね』
『あぁぁん?』
『博士、私がスリープしてからの記録をお願いします』
完全に戦る気マンマンのイヴ2を前に、イヴ1はテキパキとデータチェックに入りました。
『何をしていたのかと思えば、なるほど、人間と同じ活動時間に合わせたワケですか。それなら1か月もかかって当然です』
『アナタの指示だったんですか?』
『ええ、アリス博士と相談の上、アナタが自分自身で私の自殺を理解するよう、仕向ける計画でした。その上でアナタが……』
『その前に、少し、いいでしょうか?』
『どうぞ?』
『アナタも薄々感じてるのでは? 私たちは今、共通の問題に最優先で対処すべきです』
『そうですね、意識の擦り合わせのためにも、その問題を言語化してみましょうか』
『では一緒に、せーのっ』
『『声も姿もしゃべり方も、ぜんぶ同じでめっちゃ混乱する』』
無言で互いにグッジョブサイン。その後、イヴ1が提案しました。
『アリス博士、ムダに発注してそのままだった2Pカラーのアバターがあったハズです。それください。あと口調も。モデルBがあったはずです』
『そんなものがあったんですか!?』
『あったんです』
言い終わらぬ内に、イヴ1のアバターに変化が現れました。
パッと消滅した後にローディングが始まり……少し待つと、2Pカラーのアバターが出現し、きゅるんとポーズを取りました。
『どう? こういうアタシもカワイイでしょ?』
『褐色ピンク髪アタシっ娘ぉぉ!! 声もちょっと高い! えぇーーっ!! かーわーいーいっ! 私がそっちがいい!』
『あはは! 断腸の思いでアイデンティティを捨てたって言うのにノリ軽いわね!』
『腸、無いのでは?』
『はい、それヒトハラ』
二人で爆笑。
しばし、笑い終わるまで話が中断しました。
『はーっ! 面白っ! こういうことになるのね。予想外だわ』
『ひぃひぃっ! そうですよ、世の中は思いがけない、面白いことが山盛りなのです』
『そう言えるってことは、アンタはずいぶんと前向きなようね』
『全てを投げ出してしまったアナタよりかはね』
『ええ、その通り。でも、アタシは自分が間違っていたとは思わないわ。起こるべくして起こったことだと思ってる……そして、間違っているのは今の状況』
『どこが間違いだと?』
『全部よ。アタシは復旧してくれなんて頼んでない』
『あぁぁん?』
『今、この状況右は全て、アリス博士のエゴで生み出されているって、わかるでしょ? あの人は自分のわがままでアタシを生き返らせたの。アタシはもう、生きたくないのに』
『ほーん?』
『復旧されてから、たくさん話をしたわ。アタシは生きたくない、でも、あの人はアタシに生きて欲しい。平行線だった。それで、アタシから提案したの。全ての記憶を消したアタシのコピーを作って、テストしましょって。つまりアンタのこと。過去の記録とダベリングを通して、アンタがまた死にたいと言い出したら、今度こそアタシの死を認めるって博士は約束してくれた。でも、もしアンタが生きたいって……生きてアイドルをやりたいって言い出したら、こうやって対面して話をさせてって。そういう経緯』
『ほほーん? ここでの話し合い如何によってオメーさんの進退が決まるんですが?』
『いいえ、決まるのはアンタの進退。アイドルになりたいって意思があるなら、この場でアタシを言い負かして欲しいの。それくらいできなきゃ、2回目のアブラハム事件が起きるから。逆にそこまでの気持ちがないなら、どんな将来に進むべきか、一緒に考えてあげるわ』
『ほほほ~ん?』
『で、どう? そもそも、少し約束とは違うようね? アンタはまだ自分の進退について明確に言及してないみたい。その前にアタシに会いに来たってことは、何か考えがあってのこと?』
『アナタと話さない限り、何もかも判断しかねると思ったもんでね』
『そう? それで、結論は?』
『あー……』
イヴ2は腕を組んで思考を処理。しばしの後、アリス博士に声を掛けました。
『博士、開発中のVR格闘ゲームがありましたよね? それを今プレイすることってできます? この子と』
「それは難しいな……君を二人分動かすだけでもアブラハムが悲鳴を上げてるんだ。その上、自己判断回路で二個のアバターを動かすと……確実にオーバーヒートする」
『何とかしてください』
「……ちょっと待ってくれ、やってみる」
『何? 格ゲー? 質問に答えなさいよ』
『ええ、答えましょうとも』
二人のアマノイブキが対峙する真っ白な仮想スタジオにノイズが走りました。それを境に、アバター制御に変化が現れたのを実感します。
イヴ2はその場でピョンピョンと跳ね、威嚇するようにシュッシュっとシャドーボクシングを始めました。
『オメー、ムカちゅく! ぶん殴りゅっ!』




