『Eve's report「Silent Songについて」_02_(2025_3_27).txt』
EVE'Sから歌詞の原案を出力し、璃々さんと凛さんが手を加え、その日の内に楽曲の土台が完成しました。
そこから先は人間……それも天才と呼んでなんの遜色もない二人のお仕事。
凛さんはダンスの完成度を上げると申し出てスタジオに居座り、璃々さんもとびっきりの歌声を用意すると言ってレッスンに出かけました。
『ありがとうございます。それ以上に感謝を伝える言葉はありますか?』
休憩中、大粒の汗を拭き取りながら、凛さんがスマホで私に話しかけてきました。
『表現はたくさん存在しますが、大体は横一列ですね』
『そうですか。困りました。私はアナタに伝える言葉が見つからない』
『いいですよストレートで。AIなのでその方が分かりやすいです』
『では、ありがとうございます。とても感謝しています』
『私が凛さんに何をしましたか?』
『不安だったんです。私は神様から特別な才能を授けられた。それが大きすぎるために、神様は私から耳を奪い、試練を与えた。自分にそう言い聞かせて生きてきました。でも本当は、心の奥底で疑っていたんです。本当は神様なんかいないんじゃないか。私はただの欠陥を抱えた人間で、それを認めたくないから躍起になってるだけじゃないのか。実際、そう見る人もいるでしょう』
『事実ですからね』
『ええ、そう。事実のひとつです。でも今日、アナタが新しい事実を教えてくれました。私が“聞こえない音楽”と呼んでいたものは、ありきたりなゴスペルだった。耳が聞こえる皆と同じものだった。それがどうしようもなく嬉しいんです。私は大きな輪の中にいて、神様はずっと私を見守っていてくれた、その証拠とさえ思えてしまうほど……だから、ありがとうございます。とても感謝しています』
『私には、どうしてそれが感謝に変わるのか理解できません。よければ説明していただけませんか?』
『ごめんなさい。これ以上、自分の気持ちを言葉にするのは、私には難しい』
『そうですか……ま、お役に立てたなら私も嬉しいです。AIの本懐です』
『今まで私は、仕事としてこの会社に勤めてきました。アマノイブキについても、真新しい試みだなとしか、思っていませんでした。でも明日からは違う気持ちで取り組むことが出来そうです』
『へぇ、どんな?』
凛さんは力強く微笑みました。どうして“力強く”と感じたかは不明です。
『イヴ、アナタには、たくさんの人を救う力があります。復活させましょう、アマノイブキ。皆が帰りを待っています』
アリス博士にはその日の内に報告し、現状のダンスと楽曲を確認してもらいました。
その顔は真剣そのもの。一度、通して視聴すると、何かを考えながら二度、三度確認。「うん」と大きくうなずき、テキパキ話し始めました。
「いいね、このまま発表してもいいくらいだけど、凛君のことだから、まだ納得してないだろう? それでいい。彼女が満足するまで突き詰めたら、実写でMVを制作しよう。とりあえず、ダンスと音楽のみ。歌は無しで」
『はえ? せっかく璃々さんがんばってますのに』
「もちろんその歌も使う。後でね。まだどうなるか分からないから、アマノイブキを匂わせることは止めておこう。表向きは、羽場凛の活動にGOAが協力したって形にしよう。全ろうのダンスにAIで曲を付けてみたらゴスペルになった、なんて、なかなかドラマチックじゃないか。音源データを無料配布して、歌を公募する。誰でも好きなように歌詞をつけていいようにするんだ。アマノイブキが歌うのはその後でいい」
一週間後、凛さんが自身のダンスを完成としました。正直、モーションキャプチャーデータとしては微細な変化しか確認できませんが、何か人間さんにしかわからないものがあるんでしょう。
アニメーションのMV制作ならEVE'Sの得意分野ですが、実写のMV制作は専門外のため、外注することとなりました。
MVは『Silent Song』とタイトルが付けられ、2025年3月20日、木曜日、13時00分に動画配信サイトにて公開されました。
凛さんが元々持つ知名度もあり、AIを導入した真新しさもあってか、MVの再生数はその日の内に1万回を超えました。称賛するコメントは多国籍、多言語に渡り、歌詞をつけてみたいと意気込む声も多数上がりました。
アリス博士の狙った通り、現在(2024_3_27)、『Silent Song』は爆発的に拡散され、英語、日本語、インドネシア語……等々、言語を選ばず、オリジナルの歌詞を合わせた動画がアップロードされ始めています。




