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第10封 日々は些事の繰り返し②



 またか、とテトラは辟易した顔で眉を顰めた。


 テトラの前に現れたのは、三人の小娘……もとい、ギンゴー帝国第一皇女付き侍女たちである。

 彼女たちはおよそ侍女業とは思えないような、美しいドレスと装飾品で彩られていて、肌にシミ一つない。


 第一皇女殿下はどうやら、侍女を自分の小間使いではなく、引き立て役(アクセサリー)として扱っている節がある。美しい自分の周囲は、美しい存在で囲われなければならない。よって第一皇女の侍女は()()()()()のだ

 本来なら侍女が行う仕事を、下女(メイド)に代用させ、やることと言えば皇女の話し相手。

 まだ来たばかりのテトラでさえ、その実情を把握できるくらい、ちょっと異質な存在だった。

 

 加えてこの一週間、難癖つけてテトラを馬鹿にしてくる、筆頭三人組である。

 

 テトラは滑車付きの配膳台に皿を置くと、姿勢を正して顎を引いた。


「第三皇子殿下の軽食の用意ですが」

「まぁ、()()殿()()。大変ですわねぇ、こんな下女がやるような事を、王女様自らやらねば、お国の復興もままならないなんて」

「そうですわね侍女殿下。そうだわ、よろしかったらあたくしのドレスをお渡ししましょうか? 型が古いドレスですもの、糸を解けばそれなりになりますわよ」

「ふふふ! 本当にお可哀想。第三皇子殿下も、こんな人を婚約者にしないといけないなんて。肌もボロボロで髪も艶がなくって、女として同情致しますわ」


 三人で顔を見合わせ、ねぇーえ? と揃って首を傾げる様は滑稽である。いや、婚約者の打診をしてきたのは、リナンの方なのだが?

 どうも帝国内では、リナンが嫌々テトラと婚約した事になっているようだ。あの本人の性格上、はぁ、とか、まぁ、とか言って、まともに否定しなかったのだろう。


 テトラは頭痛のする頭を片手で押さえ、再び背筋を伸ばすと、嫌な顔で笑い合う三人を見据えた。


 確かにテトラには、ナンフェア王国の王族としての()()はない。そんなものが明日の飯に変わる訳でもないし、国民が困っているなら方々に頭も下げ、駆けずり回る。

 だが彼女は、自身が()()()()()()()を忘れた日は、一度もないつもりだ。


 テトラ・オービスはいずれ、第一王位継承権を賜る。それが貧困に喘ぐ弱小国であっても、彼女は王になるべく生を受けた。

 些事にさえずる小娘に負けるような、軟弱な精神は持ち合わせていないのだ。


「そうですね。()()一介の侍女であるわたしなど、殿下には無相応でしょう。ご忠告恐れ入ります。それで、三人ともども離席して、今、第一皇女殿下のお側にはどなたが?」


 すっと細められた双眸に、第一皇女の侍女たちが肩を跳ねさせる。

 先ほどまであった、温厚な気配を潜めたテトラに、彼女たちは困惑した様子で顔を見合わせた。

 厨房内にいる料理人たちが、思わず手を止めて様子を伺い始める。


「な、なんですの、貴女に関係はないでしょう」

「そうご理解頂いているなら、結構です。つまりわたしの行いにも、あなた方は関係ありません」

「なっ! なんて言い草なの! わたくし達はあなたの態度を改めさせようと──」

「改める? 改めて良いのですか?」


 わなわなと震える三人組に、テトラは息を吸い込んで吐き出した。意味を分かって言っているのだろうか。


「侍女業への従事が終われば、わたしはナンフェア王国第一王女に戻ります。王族に働いた不敬を、問うことが出来る立場です。知っていますか? アマリリス連邦内で、他国より王族に対する不敬があった場合、処罰の判断は被害国側に委ねられることを」

「……それは……」

「わたしは今、ただの第三皇子付き侍女です。もう一度言いましょう。わたしが態度を改めて良いのですか?」


 些か狡い反論の仕方だが、三人組には効果てきめんだったようである。

 彼女らは悔しそうに歯噛みして、扇で口元を隠しながら、そそくさと退散していった。


 その後ろ姿が見えなくなってから、テトラは今度こ大きな息を吐いて、配膳台にティーセットを置いた。


 (こんな権力を振りかざすやり方、好きじゃないのに。もっと格好良く撃退したいわねぇ)


 落胆して熱湯をポットに注ぎ、ティーコジーを被せて、いざ配膳台の取っ手に手をかける。

 すると横から伸びてきた太ましい腕が、可愛らしい包み紙の菓子を置いた。


「ヒューレン料理長さま」


 恰幅の良い、しかしがっしりとした体格の料理長は、テトラの顔を見下ろす。

 寡黙な料理人であるが腕は確かで、多くの部下を従えている人だ。初日からテトラの事を気に入ってくれ、賄い飯には必ず、美味しい菓子をオマケしてくれる。

 

 ヒューレンはテトラの背を優しく叩き、親指をグッと立ててから口を開いた。


「困ったときは、厨房に来て助けを求めな。格好良かったぜ、お姫さん」


 きょとんとして目を瞬かせると、他の料理人たちも同様に頷く。

 テトラは暖かな心地になりながら、侍女服の裾を持ち上げ、美しい所作で膝を落とした。

 そして満面の笑顔を見せ、配膳台を引き寄せる。


「ふふ、ありがとう。その時はよろしくお願いしますね」


 考えねばならない事は多いが、帝国の中も味方がいてくれる。その事実だけで十分だった。

 鬱憤も晴れて再度一礼すると、テトラは機嫌よく歩き出す。

 

 背後で野太い奇声が聞こえ、パリーン! と食器が割れる音がしたが、いつの間にか出入り口にいた料理長が片手を払っていたので、疑問に思いつつ急ぎ足で厨房を後にした。

 

 

 





 

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