5.戦いを終えて。
無邪気な最強少女と、哀しみ背負うオッサン冒険者。
_(:3 」∠)_
――ダンジョンには、再び静寂が訪れた。
「グリム、だいじょうぶ?」
「良くもまぁ、あんな数の魔物を一度に相手にしておいて。汗一つかかないどころか、呼吸も全然乱れてないじゃないか」
疲れ果て、尻餅をつくグリムに手を差し出すリュカ。
不思議そうに小首を傾げる少女に対して、グリムは一つ呆れたように返した。少女の実力を知らない人から見れば、異様としか思えない状況。
そんな声音を感じ取ったか、少しだけ不安げにリュカは訊ねた。
「……変、かな?」
「変というか、そうだな――」
その問いかけに対して、グリムは顎に手を当てて考え込む。
そしてまた一つ、今度は呆れたように笑ってから彼女に応えるのだった。
「いや、お前は凄いよ。ただただ、すごく強い女の子だ」――と。
そう言ってから、差し出された手を取る。
立ち上がった彼を見上げるリュカは、心の底から嬉しそうに笑っていた。そんな彼女を見て、グリムは娘を見ているような気持ちになり、自然と頭を撫でる。
「ん、なにしてるの?」
「あー……いや、思わずな」
するとリュカはキョトンと小首を傾げて、彼を見た。
あまりに無垢な表情と眼差しに、グリムは気恥ずかしくなって手を引っ込める。そして行き場のなくなったそれで頬を掻いていると、少女はまた笑った。
そして、嬉しそうにこう言うのだ。
「あはは! おかしなグリム!」――と。
本当に無邪気に。
年相応の少女らしく、ただただ無邪気に。
「……帰るか、王都に」
「うん……!」
そんなリュカに、グリムは頬を綻ばせた。
そうして二人は歩き出す。
初めての依頼はおかしな出来事ばかり。
リュカはこの時、そんな風に思うのだった。
◆
「うわあっ! ねぇ、グリム! 好きな服選んでいいの!?」
「あぁ、良いぞ。いつまでもボロ服を着せているわけにもいかないからな」
――そんな出来事の翌日に。
二人の姿は、王都の一角にある子供服の店にあった。
並んでいるのは、普通のものよりも少し値の張る品ばかり。それでもグリムがこの店を選んだのは、少女に命を救われた礼の気持ちもあったのだろう。
もっとも、当の本人はその感謝に気付いていない様子だったが。
「ねぇねぇ、こっち! こっちに可愛いのがあるよ!!」
「おーい、あまり走るなよ。転ぶぞ?」
「だいじょーぶー!」
楽しげに駆けまわるリュカを見て、グリムは自然と笑みを浮かべる。
このように笑うのは、いつ以来だっただろうか。そう考えてふと改めて、こちらに手を振る少女に目をやった。すると、
『ねぇ、パパ! この服がいいなぁ!』
「――――――」
同じ年頃の女の子を幻視した。
いや、グリムはその少女が誰か、何者よりも知っている。
何故なら、彼女は――。
「あぁ、アニス。お前も生きていてくれたら、な……」
――グリムにとって、かけがえのない存在。
五年前に失った娘だったのだから。
「どうしたの、グリム?」
「……ん、あぁ。いや、何でもないさ」
立ち尽くす彼を現実に引き戻したのは、リュカだった。
いつものように小首を傾げる少女にグリムは、一つ咳払いをして答える。
「……さて、どれにしようか!」
そして、過去を振り払うようにして。
彼は笑顔を浮かべ、リュカの頭を優しく撫でるのだった……。
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