手を繋いで
ざわざわとした周りから、宰相一家である侯爵家の教育を受けてきたエトール嬢に対する発言が少しずつ変わってきた。
ファンブレイブ侯爵夫妻は、キリッとした見た目で、いつだって礼節とマナーに厳しい印象がある。
その教育を受けてきた子たち、エドやその兄弟たちは皆教育が行き届いていて、礼節にとても厳しくマナーだって完璧だ。
「アンジェ様、ショックで痩せられてしまったのかと思っていましたが、もしかしてご自身で律してあのお姿に?」
「アリス様も先程、アンジェ様は目的を持って努力したとおっしゃっていましたわ」
アリスは周りに視線を配ることはせず、真っ直ぐにエトール嬢を見つめている。
あぁ、美しい。
桃色の瞳はどこまでも熱くて、友情を大切にするアリスは心までも綺麗だ。
「待って下さい。没落した家と婚約続行なんて無理でしょう?」
聖女、それはとんでもなく不敬だと思う。
今のエトール家に力はなくても、今も変わらずエトール嬢の婚約者はファンブレイブ侯爵家の嫡男だというのに。
「没落などしない。エトール伯爵家は三男が継ぐことが決まった。その教育には我がファンブレイブが、そして援助先としてアイティヴェル辺境伯家が立候補してくれた。」
これは凄い。
《制裁のファンブレイブ》と《英雄のアイティヴェル》か後見だなんて豪華すぎるよな。
周り人間は驚きのあまり静まったほどだ。
「それに、後継者の推薦者には、アグニエイト侯爵、ユアランス侯爵の名もある。侯爵たちは、自らの意思で後押しをして下さった。」
エドの火力は最大だ。
贔屓などと言われないように、あえて皇太子殿下の名は出していないのだろうが、それでも出せるメンバーで最強を揃えてきた。
リンの家まで使わなかったのは、ちょっとした教会と他貴族への配慮かもしれない。
仮にも聖女だからな。
「なにより、アンジェとの婚姻を望んでいるのはこの私自身だ。」
「「えっ」」
エトール嬢と聖女の声が重なった。
なんでエトール嬢までそのリアクションなの。
だんだんと赤く染まっていくエトール嬢を見て、アリスの表情が和らいだ。
とても嬉しそうだ。
なら、俺も見習って……
「アル、それは後にしようね。」
何で分かったの。
ウィルって絶対心読んでるよね?
アリスが不思議そうな表情でこっちを見たので、とりあえず「あとでね」って優しく伝えておいた。
不安にさせたくはない。
強く言われて、動揺したのか聖女が涙を浮かべる。
そうすると何故か「大丈夫?」「俺が守らないと」「可愛い」など聖女の脇から聞こえてくる。
こういう場の標的は、運が悪いことに何故かいつも俺だったけど、もしエトール嬢監禁事件に聖女が関わっているならエドに何かしてくるかもとは聞いていたけど。
やっぱり関わっているってことで良いのか?
監禁事件には一緒に閉じ込められた男の他に、外から鍵をかける人が必要だ。
そして、役に立たないことに、中の男は何も知らなかった。
エドとリンが調べても見つからないなんて事態に、ウィルまで驚いていた。
「…………?」
アリスが何か考え込んでいるようだ。
まぁ、俺も聖女の周りに居る男たちは変だと思う。
頬を染めて聖女を囲って、侯爵家のエドを睨みつけるなんて、とても正気の沙汰とは思えない。
「アディ。聖女様は、本当にファンブレイブ様をお慕いしているのでしょうか?」
「エスコートしてほしかったみたいだから、そうなんじゃないの?」
「アリス嬢、その話あとで私にも教えてくれる?」
ウィルが話に割って入ってきた。
おい、俺が今アリスと話しているのに。
だいたいアリスに気安く話しかけるんじゃない!
「畏まりました、殿下。」
仕方ない。
仕方ないけど、なんかおもしろくない。
アリスとウィルって数回しか話したことないと思ってたけど、なんとなくふたりの雰囲気が柔らかい。
もしかして、俺の知らない何かがある?
「アリス、向こうに美味しそうなケーキがあったよ。食べに行かない?」
「アル。私に対して嫉妬心は必要ないからね。」
「いくら親友でもウィルが男である限り、俺は安心できない。」
アリスが笑ってるから、今回は許してやるか。
ケーキを食べに行こうとアリスが手を引いて言うので、ウィルとレオに挨拶をしてから俺たちは手を繋いで歩き出した。
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