母の存在
「やぁ、アル。来てくれて嬉しいよ。」
ニコニコした笑顔でウィルが現れた。
もしかして逃げていく公子を見ていた?
「お招き頂き有り難うございます。ところで殿下、婚約者を迎えに行きたいので、これで失礼致します。」
「お前って奴は…… でも、そうだな、私も一緒に行こうかな。」
声をかけてきたウィルの後ろにはレオが控えている。
レオ、婚約者居ないのにどうするのかと思ったら、ウィルの補佐役を引き受けて仕事を理由に色々断れるってことか。
「レオ、その服すごいな。」
わざわざ騎士服まで着てるなんてやりすぎでは?
お茶会だからエスコート必須ではないけど、そんなに聖女のこと嫌いだったのか。
「褒め言葉として受け取るよ。お前は、なんていうか、いつ見ても美形の集大成だな。」
意味が分からない。
美形の集大成って何。
「レオ。アルは自分の容姿に興味はないと思うよ。だってアルは」
そのとき、大きな音が響いた。
硝子が割れるような音と、悲鳴めいたどよめきだ。
ずっと騒がしいと思っていたけど、騒ぎが起こっているのはエドが居た方向だ。
エドがいるなら、当然エトール嬢が一緒に居る。
ならば、アリスが駆けつけている可能性が高い。
人混みを掻き分けて近くまで来て、やっとアリスを見つけた。
近づいていくと、アリスの周りに居た親衛隊らしき令嬢たちが俺に先に気付いてサッと下がった。
親衛隊、優秀すぎる。
アリスの表情は、いつもより険しい。
視線の先に居るのは、人混みの中心に居るエドとエトール嬢、対して聖女一団だ。
硝子が割れた音は、落ちているグラスだろう。
せっかくウィルが、美味しい果実水を用意したって言ってたのにな。
俺もまだ飲んでいない。
「私はただ、婚約破棄して別の女性をエスコートするなら、私へのお誘いくらいあっても良かったのでは、と」
ん???
俺にはエトール嬢に見えるけど。
それに婚約破棄って、聖女は何言ってるの。
「へぇ、エトール嬢だいぶ雰囲気が変わったね。」
「そうだな。ちょっと驚いている。」
アリスがすぐ傍まで来ていたふたりに気が付いたが、ウィルが人差し指を唇の前で立てて静寂を命じた。
何その仕草、ウィルのキラキラした見た目に周り令嬢たちの顔が赤く染まったんだけど。
「アイティヴェルでは女性を素敵に変える魔法でもあるのかな?」
「ありません。アンジェ様が目的を持って努力し、その結果として隠れていた魅力が可視化されたに過ぎません。」
そんな魔法あったら怖くない?
見た目というか、体格を変える魔法なんてあったら大変だ。
周りが驚いたような反応でどよめきが増した。
聞いてなかったけど、多分エドが連れている女性がエトール嬢本人だと分かったんだろう。
そんなに変わっただろうか?
「アンジェは子どもの頃から我が母から教育を受け、男性とふたりになることなど一切なく過ごしてきた。トラブルが起こるなんて、悪意を感じないわけない。」
確かにファンブレイブ侯爵夫人の教育なら、などと声が聞こえてくる。
母の存在で婚約者を守れるなら、うちの母上もアリスと会える機会を増やしとこうかな?
母上からはアリスに今時点で必要な教育はないと聞いているけど、それって周りから見たら伝わらない。
帰ったらすぐ母上に相談しよう。
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ちなみにアンジェは太っていたわけではないですが、家庭環境から栄養が足りていなかったり色々です。
アンジェ、幸せなって!