嘘
「何故令嬢を遠ざけたのですか? あまり嫉妬深いと女性から反感を受けるのでは?」
ニコニコしているのが腹ただしい。
けど、休暇中に俺だって対策くらいしてきた。
「アリスは私の初恋であり唯一ですから、公子様のように上手くは口説けないものです。」
知らないとでも思っているのか?
僅かに反応したが、また笑顔をつくり直したようだ。
「私の方が年上ですからね。既婚者ですし、相談くらいは乗れるかもしれません。」
お前なんかに相談するわけないだろ。
在学中の生徒の中に公爵家に縁ある者が居るのは知ってたけど、まさか本当にパートナーとして参加するとは。
「公子様は度々街に行かれてると耳にしました。私は婚約者とのデートは相談して行き先を決めますが、公子様ほどなら完璧にエスコートできるのでしょうね。」
さてと、そろそろリンから教わったやつかな。
俺の場合は無理に笑顔は作らなくても、世間話と同じ雰囲気で話すのが効果的って言ってたよな。
「そういえば、最近四番街のあの店には行かれていないそうですね。お気に入りの店だと聞いたのですが。」
お、静かになったな。
少し声の音量を落としたから、周りには聞こえないだろう。
それに何故か向こうが騒がしくなってきた。
「あぁ、そういえば、このお茶会には聖女様もいらっしゃるようですね。公子様との “再会” というのも素敵かと存じますが、挨拶に行かれた方が良いのでは?」
「いや、あ、すまないが急用が入ったようだ。これで失礼する。」
公爵家の人間がこんなに分かりやすくて大丈夫なの?
バタバタと帰っていく公子を見て不安になった。
聖女が来ることくらいちょっと考えれば分かるだろうから、事実を俺たちが知っていることに怯えたのかな。
それも仕方ないかもな。
公爵家の長男が聖女と男女の関係を持っただなんて、娶れと言われたら従うしかないような話だ。
お遊びなんかで済ませられる身分ではないし、それを推薦する理由があるのは皇太子殿下と侯爵家嫡男たち。
陛下も蔑ろにはできない面子での推薦で、現在の婚姻は即日解消、そして即聖女と再婚だろう。
四番街の店と言うのは、酒場のことだ。
更に言えば、男女の出逢いの場であるとか。
酒場で意気投合した男女が二階、三階にある宿に消えていく。
公子はそこの常連だ。
当然変装しているが、美形までは隠せなかったようで女性人気が高かったと聞いている。
健全とは言えない出逢いの場に、頻繁に出入りしていたなんて確実に醜聞だ。
それも公爵家の既婚者が。
しかも、目を覚ましてから聖女に気付いたなんてアホ過ぎる。
そんなに酔っていたのか?
寝てる間に聖女の変装が解けていたのか?
公爵家なんだから、これまで聖女と顔を合わせる機会はたくさんあっただろう。
公子がアリスに会いたい理由は、聖女の地位を落とすのに利用できると思ったからだ。
感謝を伝えたいだけなんて、全くの嘘。
聖女の地位を落とせば、己の醜聞が露見してしまった際に被害が減るとでも思ったのか?
この話は、リンから聞いた。
諜報能力が高いのは知ってたけど、ウィルの補佐役をしてたのにその片手間で調べられるなんてリンは本当に優秀だ。
そして、公子と聖女の出逢いから翌朝の目覚めまで把握しているリンが、俺はちょっと怖い。
エドなんて「結婚させちゃいます?」とお怒りだった。
エドとエトール伯爵家にとってアリスは恩人なのだから、当然の対応と言えるだろう。
公子は妻が居るらしいけど、こんな男なら離縁になった方がマシだと思う。
ウィルが夫人と相談するからと話を止めているけど、是非実現してほしい。
まぁ問題は、聖女が皇家の親戚になってしまうことかな。
再開後、読んで下さった方々
有り難うございます!




