休暇が明けて
様々な事情があり更新が大変遅くなってしまいました。
四章スタートです。
休暇が明けて学園で最初に行われるのは、教師たちによる始業の挨拶が午前中に、そして午後からは生徒たちのお茶会だ。
何でお茶会? って思わなくもないけど、生徒は貴族なのだからこれも家門から課せられた義務だ。
今年は特に生徒たちの本気度が凄まじい。
皇太子殿下、アグニエイト侯爵家、ユアランス侯爵家、ファンブレイブ侯爵家、更にはあのアイティヴェル辺境伯家嫡男、そして侯爵家の婚約者がふたりも在学している奇跡的な年だ。
あの御方と同じ学び舎で生活を、とか将来言えるように頑張りたいものらしい。
休暇に入る前から行動を起こしている生徒は多く、ウィル宛の招待状その他諸々の手紙の多さに、リンがものすごーく疲れきった顔をしていた。
入学前だから関係ないと涼しい顔をしていたリンにとっては、とんでもないとばっちりだったな。
エドに押し付けられたばかりに可哀想だ。
普通に考えれば各自でお茶会を開催して、権力を分散し、学生たちにも広く機会を与えるべきだ。
ただ、今回の最大の問題は、聖女が在学していること。
お茶会を主催したならば、教会の顔色を伺って聖女に招待状を出すしかなくなる。
俺は絶対に招待状なんて出したくない。
アリスは以前、聖女の居る所に俺が行くことを反対していた。
俺にとって、アリスの願いより優先することなんて存在しないのだから、絶対に招待するなんてありえない。
父上に、皇太子殿下に、例え陛下に言われたってそれは曲げられない。
休暇に入ってすぐ、皇太子殿下が側近と侯爵一同を集めて会議を開いた。
「私のお茶会に側近三人を招待することにした。」
皇太子殿下の第一声がコレ。
どうする? なんて平和なものじゃなかった。
こういうのでも会議って言うの?
「殿下!」
ウィルは一度視線を落としたが、声が上がった方へゆっくりと視線を向けた。
うわぁ。
「侯爵。私の開くお茶会に、私の側近が、参加することが、何かおかしいのか?」
ウィル、本当に怖い。
口元も口調も穏やかなのに、目元はこれっぽっちも笑っていないし空色の瞳は圧を放っている。
普段がにこやかなだけにこういうの心にくるよね。
反論しようとしたファンブレイブ侯爵も黙った。
「理解があって嬉しいよ。」
理解って何だっけな。
ウィルには、皇太子になれるだけの実績が存在し、そして側近であり友人である俺たちを大事にしている事実は、側近の親である侯爵たちからもそれなりには信頼も得ているはず。
各々に才があり、それを自覚している我儘な俺たち四人を、早い段階で側近にしたことだって、大人から見れば実績であり信頼だ。
そんなウィルに本気の眼差しを向けられ、それでも論破しようなどとはさすがに父上たちも思えないようだ。
俺たちは、ただ側近になっただけでなく、膝をついてウィルへの忠誠を皇帝陛下に宣誓した四人だ。
こういうときのウィルが言う事に逆らうわけがない。
聖女を単に避けることを侯爵である父上たちは、良い顔をしない面もあるだろう。
それでも、全員一致で聖女との縁を避けたい意向なのだから、今回ばかりはどんな手を使っても父上たちに納得してもらうしかない。
身分も、婚約者の存在も、彼女の前では無力に近い。
彼女はそれを理解している素振りがなく、聖女としての特権をうまく使って俺たちに取り入ろうとしているのだから。