皇太子殿下 ウィリアム
賢く優秀な側近であり、宰相を勤める厳格な父親の元で育てられたエドワード。
だけど、聖女から狙われるなら、エドが最初だと思っていた。
レオのように笑顔でかわすこともできない、アルのように冷たく断つこともできない、リンのように完全 回避も難しい。
社交の場において、喧嘩を売られたら圧で捩じ伏せるか、真っ向から戦って論破するしかない。
しかし、エドにはそれが難しかった。
そして、婚約者を守れなかったのは、エドの責任も大きいと思う。
アルのように鉄壁の壁を用意するのはやりすぎかもしれないけど、それでも権力のある家門なのだから、婚約者へのある程度の配慮は必要だった。
学園に入学した時点で、婚約者と友人のような関係でいるだけなのは悪手だったと言える。
どうしたら良いかな、と思いつつ、エドには自分で気付いて欲しかった。
そして、エドが不在の間に問題が起きた。
聖女からエトール嬢が悪く言われ、孤立していくなか、助けたのはアイティヴェル兄妹だった。
伯爵令嬢監禁事件のあと、アリス嬢がエトール嬢を連れて領地に帰ってしまった。
これにはちょっと驚いた。
アル怒るかな、と心配にもなった。
ミハエルなんて、『未来の侯爵夫人が学園で起きたことに心を痛めたなんて、父や皇太子殿下にも報告しないといけませんね。』って教師を脅したらしい。
更に『陛下にも伝わるでしょうね』ってとどめを刺したから、ふたりとも領地で試験を受けることが認められた。
私の名まで使うなんて、普通は取らない手段だ。
すぐに謝罪に来たところまで完璧だったけど。
「最近、魔道具をたくさん作ってるんだって?」
部屋に残したアルに尋ねてみた。
アルにとっての魔道具作製は、魔力の発散をしつつ魔力のコントロールを覚えるために始めた物のひとつ。
あとは、資金作りだ。
婚約者にたくさん贈り物をしたいって昔言ってた。
「ちょっとした小遣い稼ぎだ。」
「公爵家と何かあったときのための資金?」
アルは表情ひとつ変わらないけど、目線がゆっくりと横にズレた。
「はぁ。嘘がつけないよね。」
「ウィルにだけだ。」
前に私のことを、嘘をつくだけ無駄な人、と前に言っていたものね。
「公爵家が平謝りするわけにはいかないから、冷戦状態だったけど、ヴィオレット公爵がユアランス侯爵に謝罪したよ。アイティヴェル家が皇都に居なかったからね。」
「そうですか。」
「マークスも公爵から謹慎処分を受けたはずだ。」
ヴィオレット公爵が陛下に直々に懇願し、陛下の命でユアランス侯爵は息子を咎無しにしたから、アルへの処分はなくなった。
理不尽に剣を向けられた婚約者を、護っただけだという判断だ。
普通は公爵家の騎士に剣を向けたなんて、ただでは済まないけどね。
皇族として教育を受けてきたヴィオレット公爵は、魔眼のことについてしっかり解っている。
だからこそ問題を早く終息させたかったはずだ。
瞳が輝くほどの魔力持ちが存在して、それが【護】の侯爵家の嫡男というのは、アルが私と友人になった時点で近隣諸国にも広められた。
戦争の抑止力になってもらうために。
まぁ、婚約者に振られたら国を出ていくなんて言われる未来が来るとは、さすがの陛下も思っていなかっただろうけど。
「私が居て、こんな理由でお前を手放すはずないだろう。信用されてないのか?」
「‥‥‥‥秋になったらレオとエドの誕生日もあるだろう? その夜会用のドレスを贈る費用にもしたかったんだ。」
「微妙に間が空いたけど。」
「気のせいだ。」
親友が国外に出されても良いように資金調達してたなんて悲しいからな。
「アルはしなくて良かったの? 誕生パーティー。」
「社交シーズンでもないし、俺はアリスに祝ってもらえればそれで良い。」
「じゃぁ私からのプレゼントも要らないかな?」
「物による。」
アルは、いくつになっても素直だ。
私としては抜かりなく今のアルに必要な物を用意したつもりだ。
さて、萌葱色の瞳が燃えてきたようだし、そろそろお祝いの品を用意しようかな。
気圧が弱点すぎて更新が遅れてしまいました。
三章完結です。
エドワードとアンジェのこれからを
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ストックたまったら四章更新です。
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次の章では聖女とあれこれします。多分