会話
精霊が反応するってことは、行使する魔法に影響が出る可能性が高い。
「ミハエルの話では、アイティヴェルの樹蜜ではその効果はありませんでした。」
アリスは喉の調子が悪いときとか、肌の調子が悪いときとかに食べていたと言っていた。
魔力にも魔法にも影響が出ることはなかったから、討伐の役に立てたこともないとミハエルが話していたな。
祝福によって効果に違いがあるのか?
「陛下に奏上して検証をしよう。そのために明確な証言が欲しいのだが、アル?」
俺?
「お前の精獣から話を聞くことはできないのか?」
あー、その発想はなかった。
話せるようになったのは最近だから、疑問を尋ねるという考えがなかった。
ヴィーツアとフローの話によると、祝福というのは森の精霊によるお気に入りの証らしい。
そして、採取を許すのは、木々を大切にしてくれた感謝の気持ち。
『どの自然に属するかで精霊というのは気質が変わる。』
『森の精霊は気まぐれで縄張り意識も強い』
皆の顔色が変わった。
己の傍に居る精霊について尋ねたいのだろうが、無礼になるのを理解して我慢しているようだ。
教えてあげたいけど、聞いた話より自分で知ってほしい気持ちもある。
「精霊も会話できたら良いのにな。」
「あ、あの、こんな重要な話を私が聞いてよろしかったのでしょうか?」
リュカベルが心配になるほど真っ青な顔で言う。
でも、エトールでは樹蜜が取れるのだから、どっちにしろ調査依頼の勅命が行くだろう。
それに、エトール伯爵領では、甘味として浸透するくらい量が取れている。
ミハエルも驚いていたほどだ。
「ところでリュカベル。」
「はい、ユアランス様。」
「樹蜜の流通には是非力を貸したい、とミハエルが言っていた。検討してくれると嬉しい。アリスが喜ぶ。」
「アイティヴェル家のお力になれるのであれば何でもします!」
信仰的である。
無理もないか。
アイティヴェル領でも、ミハエルはリュカベルにとても親切だった。
領地の案内をし、勉強会もしたと言うし、アイティヴェル辺境伯にも会わせていた。
そして妹を守ってくれた恩人でもある。
「なに? ミハエルがそんなに協力的なの?」
「リュカベルが学生の頃から、能力があるのに勿体無いと思っていたそうです。しかし、能力を抑えていた理由が家族だったことに、ミハエルはとても怒っていました。」
何でエドが答えるの。
リュカベルはミハエルに憧れているようだったから、そのミハエルが協力的なんて嬉しいだろうな。
「リュカベル、アイティヴェル領はどうだった?」
「栄えていて、税制の仕組みもしっかりしていて、独自の事業もしっかり基盤があって、領民がアイティヴェル家を尊敬していて。本当に素晴らしい領でした!」
べた褒めである。
「領主の勉強について、アイティヴェル辺境伯家にも依頼してみようと思います。アイティヴェルは自然が豊かですし、共通点もありますから。」
エドが淡々と報告したが、これはアイティヴェルには得に利益になりそうな話がない。
樹蜜の話が広まれば、不正告発があり当主が入れ替わったばかりの弱小伯爵家のエトールが狙われるのは必然。
その後ろ楯には当然ファンブレイブがいるが、令嬢が嫁いでしまった後は効力を低く見積もられやすい。
そこでエドは、アイティヴェル辺境伯家に後見させるつもりなのだろう。
年の近いミハエルとの友情を広めれば良いだけで、実際にミハエルにはエトールを守るだけの力がある。
「辺境伯が了承するか?」
「ミハエルが多分大丈夫だろうと。辺境伯は娘の願いは絶対叶えますから。」
アリスは、エトール嬢に感謝していた。
彼女が居るから学園生活は楽しいし、ずっと領地に居たアリスにとって初めての親友なのだと。
そんな娘の願いを、辺境伯なら叶えるだろう。