エトール伯爵家 アンジェ ②
アイティヴェル領に到着されたエドワード様から、エトール家の悪事を全て聞いた。
あぁ‥‥‥ エトール伯爵家は取り潰しとなるのね。
そう思ったら、なんだか涙が止まらなくなった。
アイティヴェルでお世話になってから、栄養にまで配慮された美味しい食事を頂き、自由にできる時間を頂き、勉強する楽しさまで教えて頂いた。
昔は、食べられるだけマシだと思える生活だった。
本を読む自由すらなく、ただ教養の本を投げつけられて部屋に閉じ込められていた。
ファンブレイブ家に行った際に、自衛訓練も受けたことがあるが、それでも家では自衛しようのない暴言を浴びせられた。
それでも、家族への感情より、エドワード様がエトール家の取り潰しを決めたことがツライ。
「それで、リュカベルが後継者教育を受けるために、夏期休暇の後はファンブレイブに滞在するから、アンジェも一緒に来てはどうだろうか。」
‥‥‥‥‥え?
「あの、エトール家は取り潰しになるのでは」
「させない。リュカベルが後継者だ。」
エドワード様はリュカお兄様に領主としての素要試験をさせていて、その結果をもとにファンブレイブ侯爵家、アグニエイト侯爵家の推薦状を一緒に提出したそうです。
何故アグニエイト侯爵家‥‥‥ と思いましたが、レオナルド様とリュカお兄様は学園で面識があったらしく、昔から思うところがあったそうです。
「リュカベルはまだまだ勉強不足だが、試験では領民を第一に必死に考えた答えが書かれていた。アグニエイト侯爵は何度も書き直した跡に心打たれたと仰っておられた。」
お兄様、書き直しが知られていたことを知って照れている場合ではないかと。
それに、旅の道中一緒だったユアランス様まで、陛下に信書を送ったそうです。
精獣様に頼んだらしく、まさに速達。
「私は、エドワード様のお傍に居ても良いのでしょうか?」
「当然だ。」
婚約継続の意思表示を受けて、私はまた涙が止まらなくなりました。
エドワード様が砦に視察に行かれている間は、リュカお兄様とアリス様と過ごしました。
「淑女が訓練場を走るなんて」
お兄様は最初そう仰るほど動揺していましたが、アリス様から走る利点を聞かされて、応援して下るようになりました。
実際、アイティヴェルに来てから、私の体には様々な変化がありました。
髪が綺麗になったこと、肌荒れが減ったことも嬉しかったのですが、一番驚いたのが顔と足が細くなったことです。
今まで私の顔や膝、足首など腫れていたのかしら? と思うほど、変化がありました。
アリス様が水分が溜まっていたのを、運動や食事、マッサージなどで改善したと教えて下さいました。
それから、湯に浸かることも大事らしいです。
エトールではお風呂の時間が短く、湯船にゆっくり入る余裕もなかったので、此処に来てから湯船の有り難さを知りました。
嬉しいことに、ドレスの採寸をした際にウエストが細くなっていることも分かりました。
しかも、胸は減っていません!
食事、睡眠、運動、姿勢、化粧品類など、全てが改善されたのだから、この成果は当然だとアイティヴェル辺境伯夫人が教えて下さいました。
「美しくなくてはいけないってことはないけど、オシャレは楽しいものだと知ってくれたら嬉しいわ。」
そんなふうに仰る夫人は、眩しいくらい美しかったです。
エドワード様が砦の視察から戻られて、一緒に領都観光に行きました。
お祭りが近いだけあって、人が多いです。
エドワード様がはぐれそうになった私の手を取って、引いて下さいました。
その手は一向に離れません。
良いのでしょうか?
私たちは、観光に来た貴族として、服装も貴族の私服そのままです。
ファンブレイブ侯爵家が来たという事実を残すことが、アイティヴェル家への礼のひとつになるそうです。
雑貨屋を見たり、本屋で好きな本の話をしたり、途中のカフェでお茶をしたりしました。
いつもと違うのは、腕を組むエスコートではなく、手を繋がれていることだけ。
「アンジェ、今日は楽しかった。それと、これを」
エドワード様に渡されたのは、雑貨屋で見ていた髪飾りでした。
今気が付いたのですが、ファンブレイブ次期侯爵様を宝石店ではなく、雑貨屋に連れていってしまって良かったのでしょうか。
「いつの間に」
本当にいつの間に購入したのでしょう。
「君が見ていた色が嬉しくて、私が欲しくなったから購入した。付けてくれるか?」
‥‥‥‥‥‥色?
その髪飾りに使われているのは、小さなエメラルド。
エドワード様の瞳の色だと今更気付いて、私は湯気が出そうです。
無意識に婚約者の瞳の色を選んでいたなんて、それを婚約者自身に指摘されるなんて!
本当に、恥ずかしい。