出発
翌日、俺とエド、ミハエルが各家の騎士数名を連れて、視察に向かうことになった。
「アディ。良かったら皆さんで食べて下さいね。」
「アリスから貰った大切な物を他人に譲れと‥‥?」
確かに弁当は重いし、量が多いからミハエルまで持たされている。
「たくさん作ったので、アディだけでは食べきれないと思いますよ?」
「でも‥‥」
アリスが踵を上げて、そっと耳打ちをしてくれた。
「アディのお弁当だけ、私がデザートつけちゃったんです。早めに食べて下さいね。」
「嬉しい。」
ちゅっ。
あ、やってしまった。
アリスの頬に唇を落としてしまいました。
辺境伯もミハエルも居るのに、つい無意識で。
アリスは俯いたまま、頬に手を添えている。
髪を上半分がリボンで束ねられていて、俯いてしまっても耳が赤くなっているのがハッキリ見える。
ハンナ、流石だ。
辺境伯が膝から崩れて、ミハエルが駆け寄った。
エドは空を仰いでいる。
「アリス。行ってくるね。すぐ帰ってきます。」
アリスの手を取って、騎士が恋人にするように、誓いを立てるように唇を落とした。
「はい。お待ちしております。」
アリスは残った片手を胸元にあてて、礼をした。
帰ってきたら、抱きしめても良いだろうか。
「あの、エドワード様」
エトール嬢。
前は、 エドと友人なのか? ってくらい気安かったのに、事件以降は控えめだ。
「アンジェ。最近は納涼祭が近くて、街も賑やかだ。外出したいときは必ずアイティヴェルの護衛を借りてくれ。」
「はい、エドワード様。」
「アイティヴェル嬢、アンジェをよろしくお願い致します。」
「お任せ下さい。」
エドって本当に分かりづらい。
だって婚約者を人に任せる挨拶中ですら、表情が乏しくて義理なのか本気で心配しているのか分からない。
そもそも、せっかく会えた婚約者と離れるのに、そんな簡素な挨拶で良いの?
俺なんて昨日から別れを惜しんでいたよ。
精霊獣を置いてくのを拒否されたくらいだ。
あ。
エトール嬢がエドと視線を合わせて微笑んだ。
それに対してエドも少し表情を緩めた気がする。
なんだよ、そんな顔もできるんじゃん。
俺、エド、ミハエル、そして各家の騎士六名だけで馬で駆けていく。
俺の魔力発散が目的なのだから、少なくて全然構わない。
男だけだし、道中も野営にした。
帰りだけでも馬でなく、ヴィーツアに乗って帰っては駄目だろうか。
「野営ってもっと大変なはずなのに」
「ん?」
「アルと一緒の野営って楽だと思いまして。精獣様がいるから見張りの必要がないし、結界的な役割までしてくれる。」
俺って最高位魔導師じゃなかったら、野営のお供に、みたいな役割で貸し出されてたんじゃないだろうか?
リュカベルも同じようなこと言ってたし。
アリスと野営なんてする予定がないから、この役立ち具合は長所にはならなそう。
はぁ、さっさと帰りたいな。