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本業

 

 


「アリス、今日の予定は?」

 

 ウィルから頼まれた(強制された)仕事で、辺境の砦の視察に行くことになっている。

 

 しかも明日。

 

 八日もかけてアイティヴェルまで来て、休息日は一日のみで最北端に移動して、討伐をこなすなんてなかなかの厳しさだと思う。

 

 普通何日かの休息日があっても良いのでは?

 

 聞いたときエドは『アルの強行の後すぐに魔物討伐‥‥』とげんなりしていた。

 俺はアイティヴェルへの日程を、たった二日縮めただけだ。

 まぁ、魔物討伐は俺がするけど。


 俺はアリスと想いが通じた際に魔力暴発未遂を起こした経験があるので、今回はアリスとの再会を心配して用意された仕事だ。

 目的は、魔力発散かつ地域貢献。

 

 辺境の砦は、基本的に外部の人間は立ち入り禁止だ。

 国内にも国外にも、隙を作らないために、皇帝陛下の命で決められている。

 そしてその例外が、皇帝陛下、皇太子陛下、そして四大侯爵家だ。

 特に【護】の管轄下にある辺境伯家は、次期侯爵の俺からの依頼をアイティヴェル辺境伯を断ることはない。

 

「今日はアディと一緒に過ごしたいと思っているのですが、明日からの準備で忙しいでしょうか?」

 

 嬉しすぎる!

 一緒に居たいってアリスも思っていてくれた。

 

「全く問題ない。荷物は今朝のうちに準備してあるし、そもそも馬で行くから荷物も少ないしな。」

 

「馬ですか? 馬車の方が疲れないのでは?」

 

「機動力が大切だから。せっかくアリスの居るアイティヴェルに来ているのに、時間を取られるなんてもったいない。」

 

 アリスが頬を染めいている。

 可愛い。

 俺が素直になる度に可愛いアリスが見られるのだから、俺はいつだってアリスに素直に伝えたいと思う。

 

「明日、お弁当を用意しても良いですか?」

 

「嬉しい。」

 

 アリスから渡された弁当を食べられるのなら、魔物の殲滅くらい容易いものだ。

 

 

 

 そのとき、邸に繋がる通路を使用人がバタバタと走っていき、通りすがりの執事に叱られているのが見えた。

 

 客人が来ている前で、しかも、アリスのお茶会の傍を走ったから怒られてるのだろうけど、何かあったのだろう?

 

「アディ。すみません。」

 

 アリスが俺に断りを入れて、その場を静めるために早足で向かう。

 

 ついてきた俺にアリスが教えてくれたのだが、今年は例年より暑くて、それでも避暑をしに来ている貴族や商人はとても多い。

 観光客に、思ったより暑かったなんて思われては台無しなので、避暑の工夫を探しているらしい。

 そのための対策でアイティヴェルは大忙しらしい。

 

 でも、それって俺なら協力できるのでは?

 

「アリス。俺、協力できると思うんだけど。」

 

 俺なら氷が出し放題だし、水魔法だってアリスより弟の方が熟練度が高いと思う。

 

「あの、お言葉ですが、最高位魔導師様を雇うなど」

 

 謝罪に来ていた執事の男が、控えめに言葉を挟んできた。

 アリスが「セグル!」と声を飛ばしたけど、俺はこれくらいは気にしない。

 名前、セグルっていうのか。

 年齢的には、辺境伯付きの執事長ってところかな?

 

「俺はアリスのために、最高位魔導師の副業をしているといっても過言ではない。アリスのためなら、どんな魔法でも行使するから、雇用なんて悲しいこと言わないでほしい。」

 

「‥‥‥ユアランス様」

 

「それと、ハンナにも言ったけど、俺はアリスの家族になる予定なんだから、アルグランデと呼んでくれたら嬉しい。」

 

「ユアラ‥‥‥ いえ、アルグランデ様。お嬢様をそんなに‥‥」

 

 執事、何故涙目になった。

 アリスがニコニコと執事を見守ってるので、良く分からないけどまぁいいかな。

 

「アディは次期侯爵ですが、最高位魔導師を副業なんて言ったら、殿下に怒られるのではないのですか?」

 

 見守っていたアリスが、笑みを浮かべながら声をかけてくれた。

 

「爵位だって副業にするよ。」

 

「えっ! 本業は何ですか?」

 

「アリスの旦那さん。」

 

「‥‥‥っ!!」

 

 あ、しまった。

 結婚が職業みたいにいうのはダメだったかな。

 アリスは顔が赤いけど、怒ってるわけじゃないよね?

 しかも、フライングだ。

 

「アリス。俺は、最高位魔導師で、そのうち侯爵にもなるけど、それは全てアリスのためだから。」

 

「 ‥‥‥‥‥‥ 」

 

「俺の持っているものは、全てアリスを幸せにするための糧にしたいと思っているよ。」

 

「ア、アディ‥‥‥」

 

 桃色の瞳が潤んで俺を見てる。

 お、俺の心臓が痛い!

 

 それにしても、執事。

 何故そんなに目を見開いて驚いているの。

 

「アディ。有り難うございます。」

 

「これは俺のためなのでお礼は要らない。さて、

アリスお嬢様。対策会議を開催しませんか?」

 

 少しおちゃらけて、アリスをエスコートするために片手を差し出す。

 

「では、新しいお茶の準備させますね。」

 

 

 そして、アリスと手を繋いで庭園に戻った。

 

 



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