エトール伯爵家 アンジェ ②
アイティヴェル領での朝は早いです。
朝起きたら水を飲み、それから走ります。
とにかく走ります。
最初は最後まで走れず、歩かせてもらいました。
「運動しないで痩せているなんて不健康です。」
アリス様はこう言っていました。
貴族では、お年を召されてから、男性より女性の方が歩けなくなるのが早いそうです。
それは淑女として運動したことがなく、足腰がとても弱いから。
「貴族は高齢になってからの方が、役目が終わり自由にできる時間が増えるのに、旅行にも行けないなんて嫌だと思ったのです。」
とても納得しました。
私もアリス様と一緒に、自由に歩けるおばあちゃんになりたいです。
汗をかくのでお風呂を頂き、マッサージを受けます。
お花の香りがするオイルを使って頂いて、とても気持ちが良くリラックスできます。
朝食を頂いたら、午前中は勉強会です。
まさかの帰省したミハエル様が家庭教師です。
いいのでしょうか?
昼食を食べて、午後からは刺繍をしたり、読書をしたりしてゆったりと過ごします。
一番暑い時間帯なので、運動をしてはいけないそうです。
アイティヴェルは、避暑地としても有名な北の大地だけあって比較的涼しいです。
体力のない私はこの時間になると、つい居眠りをしてしまうこともありました。
夕方になるとアリス様は、庭園に出て植物の世話と研究活動を行います。
その時間は、辺境伯夫人に淑女教育を受けることになりました。
ある夜、アリス様から手紙を渡されました。
ユアランス様の魔道具で届いたそうです。
あの事があってから、エドワード様から初めて手紙をもらいました。
几帳面な性格を表すような綺麗な字で、それでいて内容は柔らかく、とてもエドワード様らしいと思いました。
「アンジェ様」
アリス様がハンカチを渡して下さいました。
「有り難うございます。エドワード様が、とても優しくて、私嬉しくて。」
エドワード様のお手紙は、殆んどが私を気遣う内容でした。
怪我はないと聞いているが本当か。
無理はしていないか。
つらいことはないか。
アイティヴェル家は親切にしてくれているか。
気遣いで疲弊したりはしていないか。
安らかに過ごせているのか。
そして、“辛いことがあればすぐに迎えに行く” と書いてあります。
エドワード様は普段、甘言を仰ることはなくても、いつだって誠実で優しい方です。
エドワード様は、広まっただろう悪評を信じることはなく、私を信じて下さるのですね。
アリス様宛に私のことを心配する内容の手紙を送ったことは、アリス様から聞いていました。
私への手紙がなかったのは、きっと事件に決着をつけること優先したのだろうと、アリス様もミハエル様も仰っていました。
つまり、決着がついたのでしょう。
私は、アイティヴェル家の皆様が優しいこと、エドワード様のお気持ちが嬉しいこと、そして「全てお任せ致します。」と書いて返事をアリス様に預けました。




