側近
ウィルからアドバイスをもらって、アリスに返事を書いてすぐに送った。
あの崖の質問は、何だったんだろうか。
多分、どっちを選んでも不正解ではないだろう。
主君であるウィルを選ぶことも正解。
帝国の民である婚約者を選ぶことも正解。
だったらこの質問の意図は?
ウィルは、皇族の中では珍しいタイプだ。
権力に固執することはないし、側近である四大侯爵令息と友になった。
そして、きっと誰より国民が大事なんだ。
* * * * *
数年前、ウィルの願いで、五人で貧民街を見に行ったことがある。
街中で息絶えてる人が居る。
幼い子が物請いをしている。
衣食住何もかも足りていない街。
あの空色の瞳が濡れて、感情が溢れたのを見たのは、後にも先にもあの時だけだった。
その光景に俺たち四人は、何も言えない程に衝撃を受けたんだ。
ウィルは第一皇子だけど、皇太子の選定は完全なる実力主義。
だからこそ、必死でやり遂げた。
勉学も、剣術も、魔法も、どれを取っても優秀だと認められる能力を身に付けた。
第一皇子として叩きだした実績は、全て皇太子になるための糧にした。
そんなウィルだから、俺は側近になることを決めた。
四大侯爵家は、臣下であることには変わりないが、基本的に仕事さえしていれば側近になる必要はない。
有事には真っ先に剣にも盾にもなる存在なので、普段から行動を縛られることは望まれていないと父から教わった。
陛下の御前で、俺たちが側近になるとウィルが伝えた。
四大侯爵家の嫡男一同が第一皇子殿下の後ろに膝をついて控えた瞬間、騒がしかった室内が静まり帰った。
『私は生涯国の【剣】であり、そしてウィリアム殿下の【刃】になる所存。』
この言葉を聞いたアグニエイト侯爵が『レオナルド!』と咎めたが、レオは夕陽色の瞳を陛下に向けたまま、己の父に答えることはなかった。
『私は生涯国の【護】であり、そしてウィリアム殿下の【盾】となる所存。』
うちの父は何も言わなかった。
俺の魔力眼に宰相であるエドの父が息を飲んだ。
家族を見ないのは、あくまでも家ではなく、これは自身の意思だと示すため。
『私は生涯国の【知】であり、そしてウィリアム殿下の【目】となる所存。』
エドの森を煮詰めたような瞳が、真っ直ぐに陛下を見上げたまま動かない。
ファンブレイブ侯爵の『エ、エドワード‥‥』という弱々しい声が少し可哀想だ。
四人で話し合った結果、家族には報告していない。
『私は生涯国の【整】であり、そしてウィリアム殿下の【耳】となる所存。』
リンの淡紫の瞳は他の三人と変わりなく、陛下を見て動かない。
イグニドア侯爵のため息が聴こえたな。
『お前たち、まさか侯爵や夫人に話していないのか?』
ウィルには言ってなかった。
家から反対されると最大で五十苦だから、まとめて説得しちゃおうっていう四人で話し合った結果だ。
『殿下。我々は、“家” でなく、個人で貴方様にお仕えしたいのです。』
俺たちはウィルの後ろで跪いたまま。
そして、主君になったウィルのことさえも夕陽色の眼光が威圧した。
父親たちからちょっと反発があったが、息子たちの決意を感じたらしく早々に諦めてくれた。
陛下は、各家が反対しないのならと許してくれた。
というか、笑ってた。
お陰で俺たちは無事に側近になれた。
ここからは、四人で話し合いした通り。
レオは、十五歳未満の剣術大会で優勝。
俺は、最高位魔導師になった。
エドは、皇室直属の文官試験に最年少合格。
リンは、魔導学論文で最年少の最優秀賞受賞。
ウィルの側近として箔をつけることができた。
ついでに、四大侯爵の嫡男は揃って天才だというオマケの評価も得たので、父たちを満足させることもできたかもしれない。
そして、ウィルは皇太子になった。
まず最初にしたことが医療改革だった。
医療に使われる道具の流通価格を統一し、辺境で活動してくれる医療者には手当てとして報奨を出すことにした。
そして、治療院の建設要員、維持するにあたっての清掃担当などを設けて雇用を産み出した。
しっかりと根付くまでは何年もかかると思うが、それでもウィルのしたことによって貧民街は人が減った。
俺は、ウィルのつくる国になら、アリスと生きていきたいなって思ってるよ。
言わないけど。
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