アイティヴェル辺境伯家 アリス
□アイティヴェル辺境伯家 アリス
アディとファンブレイブ様が公務に出られて三日、状況は芳しくありません。
「侯爵家の婚約者だなんて信じられません」
「兄君たちは素晴らしい御方のに、どうして令嬢だけ地味なのかしら」
あちらこちらでアンジェ様の悪口。
聞こえるような音量で話しているので、陰口ではなく悪口だと思います!!
婚約者たちが学園から離れた途端に酷くなったなんて、悪質過ぎてため息ついてしまいそう。
淑女がため息なんて駄目ですよね。
「アリス様、私と居てはご迷惑が」
「私はアンジェ様と過ごしたいのです。アンジェ様は大切なお友達ですもの。」
アンジェ様は涙ぐんでいます。
とてもとても優しい方なのです。
私を遠ざけて安全地帯に置こうとして下さいますが、私はアンジェ様のお傍に居たいと心から願っています。
エトール伯爵家は、現当主であるアンジェ様の父君がとても男性贔屓の方のようです。
アンジェ様の三人の兄君は優遇され、アンジェ様は「平凡」「地味」「嫁に行くしか使い道がない」などと言われて育ったと聞きました。
容姿を悪く言われるのは慣れている、と言われたときには、こちらの方が悲しくなりました。
エトール伯爵家四男アイザック様は、聖女様にお慕いしているようで、全くもってアンジェ様を庇ってくれないどころか一緒に悪く言ってきます。
「おい、アンジェ! お前昨日マリーナに」
聖女様の発言に言い返すと、こうやってアイザック様が妹を責めに来ます。
「初めまして、アイザック様。アンジェ様の友人、アイティヴェル辺境伯家長女アリスでございます。」
「は? アイティヴェル!?」
「まぁ! 挨拶して下さらないのですか?」
少々強めにでると、アイザック様は渋々というように挨拶を返して下さいました。
兄というだけでアンジェ様を怒鳴りつけるなら、私だってこの学園の生徒では割りと身分が高いことを振りかざしてでも戦います!
「兄というだけで、アンジェ様に対して一方的な物言いは感心しません。」
「ふんっ、貴方だっていずれは婚約を破棄されるというのに、友人だからとソレを庇って更に立場を悪くするなんて」
はい?
「そうですか。ならアルグランデ様が帰ってきたら聞いてみます。そのときはどうかご一緒して下さいね。」
「えっ」
何故、アディとの未来を勝手に、それも他人に、決めつけられなくてはならないのか。
「アリス。」
アイザック様の後ろから私を呼ぶ声がしました。
私の隣に居たアンジェ様が、声の主に気付いて淑女の礼をしています。
「お兄様。」
私の言葉から察したアイザック様が慌てて振り返って、端に寄ってから頭を下げます。
「私の可愛い妹に、大声をあげて威圧している者が居ると聞いて急いで来たのだが、何かあったか?」
「お兄様。私の大切なお友達に対して、そちらの方が大声で罵倒するのです。私のことも、所詮は婚約破棄をされる哀れで駄目で馬鹿な女だと仰れて。」
そこまで言ってない、と言いかけたアイザック様ですが、お兄様の冷たい視線に黙りました。
ユアランス侯爵家を巻き込むつもりはありません。
しかし、私はアイティヴェルの家門にかけてでもお友達を守りたく、お兄様に相談し、領地にいる両親にも手紙を送りました。
家族の答えは、“アリスの望むように徹底的に戦え” でした。
アンジェ様は学園でできた初めての友達です。
いつも優しくて、身分も損得も関係なく私を友人として接してくれる素敵な女性です。
「そうか。エトール伯爵令息。今回のことはアイティヴェル次期辺境伯として警告を出させてもらう。次があった場合は正式にエトール伯爵家に抗議をさせてもらうからそのつもりで。」
皇太子殿下、アグニエイト侯爵令息、ユアランス侯爵令息、ファンブレイブ侯爵令息。
皇族と侯爵家が揃って通う学園で、次に身分が高いのはアイティヴェル辺境伯家嫡男のお兄様です。
お兄様、相談した際には、とても怒っていました。
今もとても迫力があります。
男女に差別意識が強く、身分を気にしているなら、男で嫡男の自分が出よう、と提案して下さったお兄様に感謝の気持ちが溢れます。
とにかく、これでアイザック様は少しも静かになるでしょう。
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