ユアランス侯爵
□ ユアランス侯爵
アルグランデの父です。
会議の後、皇太子殿下の援護を受けて公子様を一蹴した、とアルグランデから報告は受けていた。
そして、ヴィオレット公爵家はユアランス侯爵家とアイティヴェル辺境伯家に公式に謝罪した。
これがなかなか気にくわない。
何故アイティヴェルより先に我が家への謝罪をした。
真っ先にアイティヴェル辺境伯家に、アリスに、誠心誠意謝るべきだろう。
* * * *
アルグランデは、赤子の頃から部屋を極寒にしてしまうほどの魔力量だった。
妻のエリーシャはいつも真冬以上の寒さ対策をして過ごしていたし、使用人も魔力耐性が高い者のみに制限したため子育ては大変だったと思う。
それでも、エリーシャは「愛しい我が子ですから」と笑顔でアルグランデに接していた。
アルグランデが物心ついた頃には、家族に迷惑をかけていると思ったのか魔力の放出を無意識に抑えるようになった。
完全に抑えられてはなかったが、それでも真冬の山籠りでもするような格好から、普通の冬服に変えられる程度の違いはあった。
しかし、結果としては良くなかった。
魔力を発散せず抑えてしまったことで、アルグランデは熱を出して寝込むことが増えてしまった。
幼い我が子が寝込み、衰弱していまう様子に、エリーシャはアルグランデの見ていないところで泣いていた。
身体が弱いアルグランデのために、エリーシャの友人の開催する小さなお茶会に参加したことがあった。
友人ができれば、アルグランデも少しは元気になるかと思って計画したものだった。
結果は、大失敗。
アルグランデの魔力眼を見た子どもが「気持ち悪い」「怖い」と言ったらしい。
エリーシャの元に泣きながら飛び付いてきた。
そこからは、更に酷かった。
その話を聞いた使用人が「仕方ない」「本当のこと」と噂を始めたことで、部屋に籠りがちになった。
エリーシャが怒るのを初めてみた。
噂をした使用人は全て解雇。
ユアランスをクビになったなんて、二度と貴族の使用人はできないだろう。
使用人がどれだけ謝罪してきても、エリーシャは「謝られても息子の心の傷は消えない」と全て拒否。
エリーシャは、息子たちにアルグランデの体質について教育を始めた。
寝込むのは、魔力が多すぎるから。
魔力が多いのは、個性であり体質である。
そして、魔力眼はその魔力量の多さ故。
魔力眼になるほどの魔力持ちが国にいるだけで、隣国との戦争の可能性は減り、家族も国民も亡くなる悲しい末路を回避できるかもしれない。
しかし、幼いうちは魔力の器である身体が小さいので熱を出してしまう。
大人になるまで生きられるか分からない。
弟たちが長男を妬むことはなかった。
等しく愛したエリーシャのお陰だろう。
そして、アルグランデが八歳のとき、皇妃様のお茶会で運命の出逢いを果たした。
アルグランデが、「婚約したい」と言ってきた。
何かしたいなんて言ってきたのは初めてだ。
しかし、初対面の女の子に対して、いきなり婚約したいだなんてどうしたものか。
悩んで保留にした結果、アルグランデは魔力が暴発してユアランス邸を氷の要塞にしてしまった。
妻は「そんなに好きな子ができるなんて」と感動。
次男は「兄上さすがです。」と一言。
三男なんて爆笑。
よくよく相手について聞いてみた。
ミルクティ色の髪に桃色の瞳、間違いなくアイティヴェル辺境伯家だ。
アイティヴェル辺境伯家に婚約申込書を送った。
持てる限りの手を全て打った結果、婚約は成立。
アルグランデは笑顔で、エリーシャが嬉し泣きしていたから良しとしよう。
アリスと過ごすようになってアルグランデは、笑顔がとても増えた。
なにより魔力眼を嫌がらなくなった。
あんなに嫌悪していた自分の瞳なのに、「アリス以外にどう思われても構わない」と言い放った。
ウィリアム殿下が手紙を下さって知ったのだが、アリスは初対面のとき魔力眼を綺麗だと言って笑顔を見せたそうだ。
アリスは、いつもユアランス邸でしか会えないことに文句や愚痴一つ言わず、定期的に会いに来てくれた。
アルグランデが熱をだしてしまったときには、傍で読書や刺繍をして過ごしてくれた。
アリスと出かけてみたい、とアルグランデは魔法の訓練を始めて、二年立つ頃には発熱することが減っていた。
殿下からのお使いでの外出も少しずつ出来るようになって、アリスとのデートを計画していたようだが実現はできなかった。
あの事件が起こったから。
十五歳になったアリスは、五年間も不義理な態度だったと謝罪をしてきた。
こんな自分では婚約者に相応しくないとも言ってきた。
しかし、アルグランデの婚約者は、未来の妻は、アリス以外に考えられない。
心の弱かったアルグランデを立ち直させたのは、間違いなくアリスなのだから。
アルグランデが己を憎まずに過ごせるのは、アリスのお陰である。
そして私もエリーシャも、アリスのことは可愛い義娘だと思っている。
ユアランスの可愛い嫁に害を成すことは、私も妻も、息子たちだって、絶対に容赦はしない。
読んで下さり有り難うございます。
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