公子様
ヴィオレット公爵家長子、マークス様。
金色の輝く髪に、薄灰色の瞳。
確か十九歳。
ウィルは瞳が空色だけど、それ以外は従兄弟というだけあって雰囲気が似てる。
どちらも父親似なのだろうな。
「ユアランス殿。実はお願いがあ」
「申し訳ありません。御断りします。」
父上たちが仕事に戻り、残ったウィル含めてお茶を飲んでいたら公子様が発言した。
即、拒否である。
「アル。せめて話は最後まで聞くべきだろう。」
エドに注意された。
確かに失礼だったかもと思って謝罪を伝えると、公子様は仕切り直した。
「現場で妹とその侍女の介抱をして下さったご令嬢に礼がしたいのだが、場を取り持ってくれないだろうか。」
「申し訳ありません。御断りします。」
え~ と、いう空気が流れる。
ちゃんと最後まで聞いたから問題ないだろうエド。
「アル。公子様は既婚者ですよ。」
「リン。既婚者ならば安全という確約にはならんだろう。それに、今回は確約がとれても会わせるつもりはない。」
今回は嫉妬とか独占欲ではない。
なくはないけど。
「公子様。ある程度情報を得ていて、その上でそのご令嬢に会いたいのではないですか?」
レオが援護してきた。
そう、今回の目的は現場を知る者なら予想できる。
公爵家の総意かは分からないけど、公子様はアリスを聖女の代わりとして祭り上げたいのだろう。
本気で聖女にしようとしているのではなく、聖女への信仰心を薄める目的だ。
公爵家だからね。
聖女がどういう人物か把握していて、今回の事件に関与している可能性があることを解っているのだろう。
「そうですね。しかし、妹が会いたがってるのも事実です。 妹は侍女を助けてくれた女性に、とても感謝していますから。」
「そうですか。伝えておきます。」
「会わせては下さらないのですか?」
微笑む顔が本当にウィルを思わせる鉄壁さだな。
男女問わず篭絡すると有名な “公子様の微笑み” だが、俺の心はアリスだけなので負けません。
「その女性が誰かご存知ですか?」
「アイティヴェル辺境伯家のアリス嬢ですよね?」
ウィルの質問にマークス公子様が答える。
なんか、怖いです。
笑顔で戦う社交界ってこんな感じ?
「それでは半分しか正解していません。」
「半分?」
「ユアランス次期侯爵の愛する婚約者で、あのアイティヴェル辺境伯が溺愛する長女アリス嬢です。」
「は?」
あ、意図が読めた。
レオも同じようだ。
エドはウィルのすることには何も言わないし、リンは何を考えているか分からんがニコニコしている。
「ヴィオレットの騎士が私の親友の婚約者に剣を向けたそうですね? しかも、怪我人を介抱していた彼女に対して声を荒げていたとか。」
知らなかったエドが驚き、リンは一瞬目付きが変わった。
そして、アイツは本物だったのか。
レオ、騎士の教育参加させてくれないかな。
「ヴィオレット公爵家から、アイティヴェル辺境伯家にもアリス嬢にも謝罪がなされていないようですね。これでは辺境伯も愛娘への面会を絶対に許可しないでしょう。」
ウィル、笑顔が黒い。
「それなのに公爵邸に来てほしいと? アリス嬢の婚約者は愛する人のためなら邸ごと氷らせますが、これはもしかしてその婚約者への宣戦布告ですか?」
おっと、公子様の顔色が悪くなった。
公爵家ならユアランス侯爵邸氷結事件知っていますからね。
「ユアランス殿、申し訳ありませんでした。アイティヴェル辺境伯家を通してアリス嬢にも正式に謝罪させて頂きます。」
「アリスが許すなら赦します。」
「怖いよアル。」
ここで手を緩めたら、今後のアリスとのデートが全て辺境伯に却下されるかもしれないから本気でいきます。
アディはどこで何してても
アリスのことばかりですね。
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有り難うございます!




