事件と事故
この時期は、皇都近くの領地では何処でも雨による災害対策が問題になる。
大きな河川を有するアグニエイト、山岳地帯の多いユアランス、大きな湖があるファンブレイブ、極端に雨量の多いイグニドア。
広い土地かつ皇都からも近いけど、問題のある地域を含めて有能な領主に任せていると聞いたな。
よって、この時期は侯爵家は皇都から離れることが多い。
皇都だけ適切な量の雨なのは何でだろうね。
戦力になりそうな人選が皇都から離れ、それでも用意周到に手練れまで揃えての襲撃。
でもさ、これって難しくない?
この犯人は、少なくともレオが皇都に居ないことを知っていたことになる。
各侯爵が貴族会議だったのは情報が手に入りやすいだろうが、レオに至っては学生である程度行動は自由だ。
あの現場から一番近いのは、大規模の騎士を有する邸はアグニエイト侯爵家だが、警戒するのは分かるけど災害の予想なんて不可能だ。
「釈然としない部分はあるが、例の方について前から気になってたことがある。行く先々出会うことが何度かあった。公務でもプライベートでも。私の行き先を、予言するかのように。」
そうなんだよね。
聖女って、例えばウィルが観に行った舞台会場で会うとか、公務で行った先近くで会うとか、とても多い。
それが突然決まった予定だとしても。
そして「運命ですね」って言うわけだ。
恐怖。
ちなみにウィルだけでなく、レオやエドにも同じ事が何度か起こっている。
引きこもり気味で過ごしてきた俺でさえ、たまにあるのだから本当に怖い。
リンは鉄壁の秘密主義なので、「鉢合わせという事故は未然に防ぐ」と言っていた。
‥‥‥事故だそうです。
一度怖くなったウィルは、リンに自分の周辺に内通者が居るのか調査を依頼していたくらいだ。
そして、内通者なんて居なかったので、恐怖が増す結果になった。
ちなみに、レオは「女性らしい発想ですね」と騎士として紳士的な鋼の精神で微笑む。
可愛いとか、賛同するとか、そういうことは絶対にしない。
エドは「ならば私がアンジェと婚約できたことも運命なのでしょう」と答えていた。
物理的に婚約者を盾にすることはないけど、むしろ精神を抉る攻撃として婚約者のことを惚気る。
答えたときのエドは笑顔で、聖女は顔がひきつっていたな。
ウィルは、そもそも答えない。
話を反らすか、笑顔を張り付けたまま黙る。
聖女はあの怖い笑顔を見て、微笑み返すんだから本当に場の空気が読めないのだろうな。
「私も経験があります。更に言えば、明日は辺境の討伐戦ですよね、と言われたことがあります。」
レオのこの言葉に大人たちの顔が引きつった。
討伐戦とは、魔物討伐に向かうことではあるが、その予定は外部に漏らさないものだ。
聖女は、機密まで知っているらしい。
とりあえず、数々の違和感は消えた。
聖女への疑念は増えたけど。
公女様があんな場所にいらっしゃったのも、騎士が軟弱なのも侍女の差し金。
そして、アグニエイトの邸が近かったことを考えると、手練れであっても奴等は捨て駒だったのだろう。
捕らえられても何も吐かないほどに、忠誠心があるというのに残酷だな。
しかし、聖女の犯行という立証は難しいな。
あの日、彼女は教会でお祈りしていたと多くの人が証言している。
まぁ怪我をして呼びに行くのなら、すぐに居場所が分かる所に居たとも言えるが。
それに、聖女とはいっても、こんな用意周到なことをできるのだろうか。
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