手芸店
「執務室、ですか?」
「ウサギ様を自室に置いたら、執務室に居る時間がとんでもなく寂しくて。」
「ふふっ。相談があるなんて何かと思えば、そういう相談なら大歓迎です。少し、考える時間を頂けますか?」
「もちろん! 有り難う。」
昼休みにアリスとそんな話をして、放課後はデートできることになりました。
暗くなる前に帰さないとミハエルから怒られるので、アリスの買い物に付き合うだけの予定だ。
来たのは手芸店。
アリスが手芸用の糸と布を購入したいって言ってたので、付き添いを申し出て隣に居る権利を獲得した。
「何を作るんだ?」
「ウサギ様に台座のようなクッションを作りたいと思いまして。」
「なにそれ凄い。」
そんなの作れるの?
俺なんて「結界張ろうかな」って言って、ビリーに「情緒がなくなります」と言われたのに。
「ふふっ、アディの分も作りますか?」
「嬉しいです。」
あぁ、眩しい。
俺は、アリスの微笑みに勝てる日は一生来ないと、改めて悟った。
そっと店員が近寄ってきて、お連れ様用に待合室があると勧めてきた。
慌てて用意したのだろうと、なんとなく察した。
気を遣わせて心底申し訳ない。
「アディ。素晴らしい素材に悩める素敵な女性たちの邪魔にならないように、私の傍に居て下さいますか?」
「もちろんだ。悩めるアリスも可愛くて素敵で、俺は何時間でも傍に居られる。」
アリスが糸や布を手にとって悩むので、今は手を繋いで居ない。
俺はそっと手を繋ぐくらいの距離まで詰めた。
「一緒に布と糸を決めましょうね。」
アリスがそっと店員に目配せをして下がらせた。
やっぱり気を遣ったことに気付いて、わざと言葉を挟んだんだろうな。
俺、もしかして他の客たちの邪魔になってる?
アリスに内緒話のようにそっと尋ねてみると、アリスは丁寧に説明して不安を払拭してくれた。
こういった手芸店に来るのは、令嬢が来ること事態が稀で、令嬢の使いとして使用人が来ることが多いらしい。
だから、店としてはまさかの侯爵家と辺境伯家の来店に慌てたのだろうと。
アリスは、「私は自分で選ぶ派なので、お店の方に気を遣わせてしまいましたね。」と眉を下げて笑った。
言われてみれば、アリスは自分で買い物をしている印象がある。
こういう経験初めてでないのかもしれないな。
お陰で俺は外デートの機会を増やしてもらってるけど。
「アディ。色の希望はありますか?」
「アリスはど‥‥‥‥‥‥いう、のに、えっと、近くて」
アリスが凄く近い。
俺はいつの間にかアリスの腰を抱いているし、触れてることを意識してしまったら身体中に熱が駆け抜ける。
紳士が淑女の腰を抱くってこれで合ってる?
アリスの不快になることしてない!?
うぅ、ドレス姿じゃないアリスはコルセットをしてないから、アリスの肌と体温を感じてしまう気にすらなる。
落ち着け!
服に触れてるだけだから、俺の体温を錯覚しているのかもしれない。
「‥‥‥‥アディ。今とても可愛い顔なので、私以外に見せてはダメですよ。顔を上げないで下さいね。」
「はい。いや、えっと、可愛い?」
アリスはすぐに布と糸を決めてくれて、俺たちは店を出ることができた。
デートが終わっても
ふたりはこんな感じですね。
ブクマ、☆☆☆☆☆、いいね など
有り難うございます。
好きな話とかあったら是非お願いします。
喜びます!




