朝の一幕
「おはよう、アリス。今日も可愛いね。」
「お、おはようございます?」
一生懸命かっこよく振る舞い、アリスにエスコートのための手を差し出す。
騎士のエスコートとしての礼節は、女性にとって好感が高いとメイドたちから教えてもらった。
アリスの好感度が少しでも上がってほしくて、俺はこの挨拶を昨日改めて練習してきた。
俺は魔導師でありながら、剣も使って戦う魔導騎士なのだから似非ではないはず。
なのに、アリスの語尾は「?」だ。
何か失敗したのだろうか。
手を取って歩いてくれるが、ただの令嬢としての礼儀なんだろうか。
不安に押し潰されそう。
「アルさま~!」
この甘ったるい声が嫌いだ。
もしこれがアリスなら歓迎なのだから、聖女のことが生理的に受け入れられないのだろう。
ハッとしたアリスが手を離して一歩下がり、頭を下げて礼を取る。
「ご機嫌よう、聖女様。しかし、私のことはユアランスと呼ぶように申しているはずです。何度も。」
「ア‥‥ ユアランス様、今日はご機嫌が悪いのかしら?」
笑顔を作った。
瞳には魔力が光っているだろうが、どうしても不快なのだから仕方ないと思う。
「当然です。婚約者との幸せな時間を今、声をかけられたことで奪われたのですから。手まで離されてしまいました。」
俺の不敬を承知の発言に、周りがギョッとしていて、アリスだけ混乱の表情を浮かべている。
「それに、機嫌とは関係なく、以前からユアランスと呼ぶように申していたはずですが?」
俺の魔力で空気が冷えていく。
聖女は明確な地位があるわけでなくても、民衆の信仰対象であり王族に継ぐ役割を担っているとも言われている。
だから何だ。
アリスとの仲を引き裂く奴なんて、害ある人物としてしか見られない。
アリスを冷やさないように、温暖の空気を纏わせる魔法をアリスにそっと放つ。
アリスは気温の変化を感じて何が起こったのかと周りを見渡しているが、これはいつかアリスの役に立てるのかと練習した魔法だ。
アリスの震えは止まったので、成果があったようでなによりだ。
「アル、さすがに寒いよ。」
現れたのはウィルだ。
聖女とて皇族よりは身分が下がるため、一同が礼を取る。
何故邪魔をした。
俺は朝のアリスとの幸せな時間を奪われたのだぞ?
ウィル、お前には失望した。
「アリス嬢、アルのエスコートに戻って構わないよ。」
アリスは短く返事をして俺の元に戻ってきてくれたので、俺はそっと手を合わせてその手を握った。
ウィル、見直した。
手を繋いだ俺を見てウィルは呆れているが、更に「行っていいよ」と声をかけてくれたので親友の株は上がるばかりだ。
頑張れ、ウィル!