襲撃事件について
帰宅して、着替えが済んだタイミングで両親から呼び出された。
「事件に巻き込まれたそうだな?」
もう知られているのか。
内密に処理すると思ったのに。
「お前、護衛騎士に剣を向けたんだって? それについての確認がしたいと連絡をもらった。」
なにそれ。
そんなの騒ぎ立てる場面じゃない。
今やるべきは、ユアランス侯爵家と争うことではないだろうに。
「怪我人のために駆つけた優しいアリスに、剣先を向けた愚か者が居ました。」
例え公爵家の騎士でも譲れない。
アリスに対して何か言ってくるなら、俺は全力で叩き潰すつもりでいる。
「‥‥‥‥は? アリスに、剣を?」
「アリスが来るまで怪我人に声をかけることも出来ず、更に暴漢の捕縛も野次馬の整理もしていたのは通りすがりのレオとアグニエイトの騎士です。」
「では、怒り狂うお前を諌めたのはレオナルドか?」
怒り狂ったと、何で知っているんでしょう。
「いいえ、俺を見つけたアリスが、怪我人のために氷が欲しいと言うので落ち着きました。」
アリスのしていた処法は両親も知らなかったらしく、今度アリスに教えを請いたいと言っていた。
「‥‥‥‥‥‥色々と、さすがお前の婚約者だな。」
色々ってなんですか。
今回の事件は単純なものではない。
「アリスは、気付いていたのか?」
「確認はしていませんが、気付いていたでしょうね。あの御方にだけは、触ることに対して許可を求めていましたから。」
「本当に賢い女性だ。」
すごいよね、アリスの洞察力。
あの女の子は、公爵家の末娘だ。
公女様の父親は皇弟殿下であり、母方の祖母がアグニエイト血縁の由緒正しい家柄。
つまり、ウィルの従兄妹であり、レオの親戚になる。
公女様はお忍びという格好をしていたし、怪我をしていた侍女らしき女性も護衛も同じような格好だった。
それなら身分を明かすべきではないと思い、野次馬もたくさん居るなかでの挨拶は俺もレオも控えた。
ただ、不審な点が多すぎる。
そもそも公女様は何であんな所に?
大通りからは離れていて、近くにあの年齢の女の子が行くような店はない。
そして、何故護衛があんなにも貧弱なのか。
対して暴漢は体術担当、魔法担当、剣担当があったようだが、どれも訓練を受けたような能力値だった。
俺が偶然近くに居なければ、レオが遠征帰りに悲鳴を聞いていなければ、事態は最悪なことになっただろう。
公女様は、俺やレオが挨拶しないこと、アリスが善意で行動していることを分かっているようだった。
無礼だと騒ぎ立てるような、幼い子どもではないのだろう。
それ程なら、迷子などではなく、計画的にあの場所に行くよう仕組まれたのかもしれない。
これは、政治的にも大きな意味を持つ事件だった。
もし公女様が怪我をしていた場合、聖女に救援を求めるしかない。
公子様ならともかく、公女様なら傷ひとつでも大騒ぎになっただろう。
そうすれば、聖女にとっては皇族にまたしても恩を売った形になる。
正直、何を求められるか分からない、という恐怖にゾッとする。
もしかしたら皇太子妃の座を迫ったかもしれない。
そうなれば、国としては最悪だ。
そうならなくても、四大侯爵家の誰かと婚姻をさせようと脅しをかけてきたかもしれない。
「アリスのした対処法は、もしかしたら聖女に対抗する一手になるかもしれんな。」
「それでもアリスの登城は拒否します。」
あの場でアリスは「女神」と呼ばれ、その行動に感動した人々が布や台など様々な物を支援してくれた。
アリスのスカートについた血を隠すために、スカーフのような物をくれた人もいた。
そのアリスを登城なんてさせたら聖女に目を付けれれてしまう。
「なるほど、それならばアリスへの召喚は私が理由を話して拒否を貫こう。アリスが名乗っていないなら、間違なくうちに連絡が来るだろうからな。」
「俺からもウィルに援護を頼みます。」
ここで父子の真面目な話しは終了だ。
待っていたといわんばかりに母が口を開いた。
「それでアル。デートはどうだったの?」
「子細の報告はしませんよ。親に話すような歳でもありません。」
「まぁ! あ、そうそう、アリスちゃんは舞台が好きなのから? 私が誘ったら付き合ってくれるかしら?」
「母が舞台が好きだと話したら、いつかご一緒したいと言っていました。」
「嬉しいわ!」
うちには娘が居ないので、母上は寂しかったのだろうな。
父上がすかさず「事件処理が落ち着いてからにしてくれよ」と釘をさしていたが、母上は行きたい場所がたくさんあるのか楽しそうだ。
公女様はお忍びで、
それを悟って挨拶せずにレオに任せたのに、
ユアランスと争おうとするクズな騎士。
生きて帰れてもこれから地獄なのでは‥‥
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有り難うございます!