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婚約について

本日三回目の更新です。

 

 

 入学式を終えて、俺はウィルを連れてアリスの元へ向かった。

 

「殿下、ご尊顔を拝謁できて光栄でございます。」

 

「久しぶりだね。でも公式の場所以外では簡易挨拶で構わないよ。君は親友の婚約者なのだから何度も会うことになるだろう。」

 

「親友‥‥? あ、いえ、あの、婚約のことなのですが」

 

 アリスは社交の場に五年も出ていないのだから、俺とウィルの友人関係を知らないのは仕方ない。

 

 ウィルは入学式直前に俺から聞いて、すぐに確認のために使いを皇城に向かわせていた。

 ウィル、感謝している。

 

 その結果、今も間違いなく婚約は継続中だと、皇太子殿下直々にアリスに伝えてくれた。

 王宮に保管されている婚約証明書を確認させたというのだから、確実に婚約は続いている。

 

「そんな‥‥‥ 」

 

 アリスの顔色が青ざめていく。

 俺との婚約、そんなに嫌だったのか。

 

「アリス、すまなかった。五年前、君を傷をおわせ、癒えることのない痕を残してしまった。」

 

 頭を深く下げてしまったので、アリスの表情は見えない。

 

「俺のことなんて、もう名前も呼びたくないくらい嫌いなのかもしれないけど、俺の気持ちは昔と何一つ変わらない。」

 

「お待ち下さい! そんな‥‥ そんな、私の傷なんかを理由に彼女を不幸せにすることを私は望んでおりません!」

 

 え? なに?

 彼女? 彼女って誰?

 

 思わず顔を上げてしまったが、アリスの瞳は潤んでいる。

 

 話が噛み合っていないことをウィルがいち早く察して、何か考えながら俺とアリスを観察している。

 

「ユアランス様は、聖女様と婚約するのだと聞きました! 五年前には既に想いを通わせてらっしゃったのでしょう?」

 


 は?


 

 はーーーー!?!?!?


 

 いやいや、何で聖女?

 比べるまでもなくアリスの圧勝だし、そもそも比べたことすらないよ!

 俺の心にアリス以外の女性を入れたことなんて一度もないのだから。

 

「待ってアリス! 俺、聖女を好きだったことなんて、人生で一秒もありえないけど。」

 

「え?」

 

 俺もアリスも大混乱で、とうとう二人とも黙ってしまった。

 

 ずっと黙って聞いていたウィルが、状況を整理して話してくれた。

 

 まず、アリスは五年前に婚約は解消されていると思っていたが、実際は現在も継続中。

 

 アリスは俺と聖女の仲を五年前から誤解しているが、そんな事実はない。

 

「アリス嬢は何でアルと聖女の仲を誤解したの?」

 

 アリスは、五年前に聖女様と街を歩く二人を見たが俺には「仕事」だったと嘘をつかれ、聖女にはその後の夜会で「髪飾りを贈られた」と自慢されたと話してくれた。

 

 髪飾り?

 

「アリス嬢、それに関しては私から謝罪させてほしい。アルグランデは嘘をついていない。」

 

 六年前に俺は、ウィルに聖女の監視任務を与えられたうちの一人になった。

 当時の俺は、婚約者が居るのに聖女に近づく役目に大反対したが、不運なことに聖女に懐かれてしまった。

 それにより、仕方なくウィルからたまに使いっぱしりの仕事させられていた。

 街を一緒歩いたなんて間違いなく付き纏われただけで、突き放すことができなかったのはウィルから与えられた仕事のせいだ。

 その時、街に居たのもウィルからの仕事だ。


 つまり、俺は嘘をついていない。


 あの付き纏われたことが嫌で、その後は徹底して避けているから間違いないだろう。

 

「髪飾りは‥‥‥?」

 

 アリスの声が弱々しく震えている。

 俺はアリスにこんな顔させるなら、この任務から力ずくで離れる所存だ。

 ついウィルを睨み付けて己の覚悟を見せてしまい、盛大なため息をつかれた。

 

「贈ったことなんてないよ。」

 

 アリスの桃色の瞳から涙が溢れた。

 

 きっと聖女の法螺話に、優しいアリスは俺に相談することも出来ずに傷付いていたのだろう。

 

「私、五年間も婚約者としての責務を果たしていません。やっぱり解消して頂いた方が」

 

 アリスは震えた声のまま、混乱が表情に出ている。

 

 それでも俺は。

 

「君に婚約破棄なんてされたら、俺は国を捨てて旅にでるよ。この先の未来にアリスが居ないなら、そんな人生に意味はないからね。」

 

 君に出逢った七年前からずっと、君を想い、未来を共にすることを願ってきた。

 

 それに何より、アリスが他の男に嫁ぐことになんてなったら、俺は気が狂って魔力を暴走させて国を破壊してしまう。

 

 それに、そもそも “解消” なんて円満を示す方法はありえないんだ。

 俺が絶対に拒否するので、解消されるときはアリスに “破棄” されるしかない。

 

「え‥‥?」

 

 涙を落とし続けていたアリスが、やっと顔を上げて俺を見てくれた。

 怯えさせることのない笑顔を、俺は作れているのだろうか。

 

「アリス、また一から始めさせてくれないだろうか? 友達からでも、婚約者からでも」

 

 アリスの手を取って、甲に唇を落とす。

 

「もちろん恋人からでも構わない。俺と一緒に居てほしい。」

 

 途端に俯いてしまったアリスは、絞りだすように「はい」と言ってくれた。

 

 俺は重ねた手を握り、アイティヴェル家の馬車まで送った。

 

 ウィルには、「国随一の魔導師が国出るなんて十分脅しだと思うよ。愛が重い。」と、後で言われたが、俺としてはだいぶ抑えてあの発言だったはずだ。

 だって相手を殺すとか、国を壊してしまうかもとは言っていない。

 

「アリス、送らせてくれる? 今日はアイティヴェルの馬車までにするけど、近いうちには邸まで送らせてくれたら嬉しいな。」

 

 何故かアリスは硬直してしまったが、俺はアリスの繋いだ手を放すことなく歩きだした。




まだまだ序盤。頑張れ、アル!

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