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アイティヴェル辺境伯家アリス ②

□アイティヴェル辺境伯家アリス

※本日2度目の更新です。

 

 王都に戻ればすぐに、アディの噂話が耳に入ってきた。

 

 皆揃って 「あの氷狼様が聖女様と婚約されるそうね」と言う。

 

 氷狼様とは、アディのことだ。

 狼ってどこから出てきたのだろうと思っていたが、今思えばヴィーツア様のことだったのですね。

 

 学園では、アディと聖女様が甘い時を過ごすのかもしれない。

 そう思うと胸が痛んだが、私は覚悟を込めて学園に向かった。

 

 

 なんだかざわざわしてるな、と思いながら馬車を降りた先に待っていたのはアディだった。

 黒髪も蜂蜜色の瞳も変わっていない。

 瞳が揺れているけど、今でも人混みが苦手なのかしら?

 

 そしてアディが私にエスコートを申し出た瞬間、周りから黄色い声が上がった。

 アディが此処に居たから、何事かと思う程騒がしかったのね。


 でも、何故エスコートを?

 

 混乱したまま手を取り歩みを進め、私は傷のことを気にしているのかと思い至った。

 やだな、私は気にしていないのに。

 

 そこからは予想外しかなかった。

 

 婚約は継続していると言われた。

 驚きすぎて、入学式はアディの新入生代表の挨拶しか覚えていない。

 

 更に皇太子殿下がアディの友人だと知り、婚約は間違いなく継続していること、聖女様とは何もないと言うことを知らされた。

 

 帰宅して直ぐに父親の元に向かった。

 婚約解消は、私のための嘘だったのだ。

 五年前、申し出はしてくれたが、ユアランスからの返事は “否” だった。

 

 でも、家族は私の心を守るために嘘をついていたのだから責められない。

 

 五年もの間、連絡ひとつも、顔を合わせることもない婚約者なのに、校門で迎えてくれたアディは本当に笑顔だった。

 

「君に婚約破棄なんてされたら俺は国を捨てて旅にでるよ。この先の未来にアリスが居ないなら、そんな人生に意味はないからね。」

 

 そう言ってくれたことが嬉しくて、だけど本当なのかと思ってしまう自分も否定できなかった。

 

 

 聖女様と対面しているアディはすごく嫌そうで、さっきまでの笑顔は全くなく、凄く不機嫌そうだった。

 聖女様に対して失礼では? と思い、皇太子殿下ですら “皇太子の微笑” を装備しているのに大丈夫なのかと不安になった。

 

 でもその時、五年前に見たアディはこの顔だったのかもしれないと思った。

 貴族の顔を張り付けず、もしかして本気で迷惑だという今みたいな顔をしていたのだろうか?

 

 

 アディに連れていってもらったカフェから帰宅したら、私の専属メイドのハンナが陥落していた。

 

「アルグランデ様は、お嬢様を心から想い、尊重して下さる御方でした。」

 

 と、家族に報告したのは驚いた。

 

 ついでに私専用の観光地図の話までされてしまったので、家族は驚きすぎて絶句していた。

 兄だけがいち早く再起動して「重くないか?」と言っていたけど。

 

 

 アディから夜会に誘われた。

 皇太子殿下からの依頼でもあるらしく、殿下からの手紙を渡された。

 

 手紙には、急に申し訳ないという気遣いがまず書かれていた。

 それから、“アルを聖女から守ってほしい” と書かれていた。

 明言は避けているが、つまり聖女様は何か悪い秘密があり、それを殿下やアディは探しているのかもしれない。

 

 私は参加を決め、ドレスは思いきってアディに任せることにした。

 

 

 数日後、アディからドレスと装飾品の贈り物が届いた。

 

「きゃーーーっ!!!!」

 

 アイティヴェル辺境伯家で、伯爵夫人である母の悲鳴が上がり、直ぐにお兄様とお父様が駆けつけた。

 

「あなた! 見てください! アルグランデ様がデザインからなされたというアリスのドレス!」

 

 私は真っ赤な顔を両手で抑えて俯いた。

 

 まず目を引くのは、アディの色合い。

 それに、とても私の好みのデザインだった。

 流行は露出のある物だったが私の好みでなく、このドレスでは過度な露出は一切ない。

 

「最近のドレスって胸元とか背中とかガバッて開いてる下品な物が多いけど、アリスにそれをさせなかったのは美徳だな。」

 

 お兄様、下品だと思っていたのね。

 先日も美女からの誘いを断ったって聞いていたけど、なるほど好みがあるのか。

 

 

 夜会の日、アディは本当に素敵だった。

 

 桃色のブローチが私を余計にドキドキさせた。

 私の瞳の色でもあり、アディが送ってくれたピアスと合わせるとお揃いにも感じる。

 いや、アディは所々に桃色が入ってるから、ある意味お揃いなのかもしれない。

 

 ダンスを踊っているとき、私はやっぱりアディが好きだと思った。

 それと同時に、本当に私で良いの? という不安があった。

 

 

 ユアランス侯爵夫妻は、私のことも、アイティヴェルも一切非難せず歓迎してくれた。

 

 そして、アディが紹介してくれた精獣様。

 

 アディは私が大丈夫ならと契約を交わし、その精獣様たちに私を護るように命じた。

 

「初めて会った八歳の時から、アリスのことが好きでした。七年たっても、五年会っていなくても変わりません。今でも大好きです。」

 

 アディがそう言ってくれたことが嬉しい。

 

 だけどやっぱり、この五年間の罪悪感が消えない。

 

 もう幼くはない、十五の私ができることは全て話すことだろう。

 

 アディは嘘をつかない。

 きっと本心で返事をくれるはずだ。

 

 

 

アリス、応援してるよ!

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